新規事業を立ち上げる際、多くの企業がまず「初年度売上〇〇万円」という数字から検討を始めます。しかし既存事業であれば過去の実績データから精度の高い予測が立てられますが、新規事業は前例がなく不確実性が高いため、最初に立てた売上目標は「当てずっぽう」になりがちです。売上目標を先に固定してしまうと、それに合わせた無理な人員配置や設備投資判断を招き、本来必要な検証プロセスをすっ飛ばして規模だけを追ってしまうリスクがあります。この記事では、売上目標より先に決めるべき検証指標の考え方と、フェーズごとにKGIへ逆算していく設計手順を整理します。
なぜ新規事業の目標設定は「売上目標」だけでは失敗するのか
既存事業の目標設定は、過去の販売実績や市場シェアといった蓄積データを土台にできます。一方、新規事業には参照できる実績がなく、需要の大きさも顧客の反応も未知数です。この状態でいきなり「3年後に売上3億円」といった数字を掲げると、その数字を達成するための逆算が先行し、本来検証すべき「そもそも顧客はこの課題にお金を払うのか」というプロセスが後回しになります。結果として、売上目標に人員や投資を合わせにいく判断が増え、検証不足のまま規模だけを拡大してしまう、という新規事業特有の失敗パターンに陥りやすくなります。
Case
中小企業庁の白書事例に見る「足下の売上目標」の罠:松浪硝子工業の転換
中小企業庁「2025年版中小企業白書」では、松浪硝子工業が電子機器用ガラス事業において「足下の売上目標達成を重視し、人員配置や設備投資を続けた」結果、6年連続で赤字事業となっていた経緯が紹介されています。目先の売上目標を優先し続けたことで、事業の本質的な立て直しよりも数字合わせの投資判断が先行してしまったのです。同社はその後、3か年計画から9か年計画へと計画期間を転換し、「長期目線で設定した目標から逆算して設定されるマイルストーンを重視」する体制へと変えたことで、改善に向かったとされています。短期の売上目標を先に固定するのではなく、長期のゴールから逆算して手前のマイルストーンを設計する、という順序の転換が改善の鍵になった実例といえます。
「そもそも何を検証すればいいかわからない」という段階からでもご相談いただけます。
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新規事業の目標設定でよくある3つの誤解
誤解1:初年度から売上目標を立てないと社内承認が通らない。実際には、事業計画に「初年度は検証指標を優先し、〇件のヒアリングと〇%の課題共感率を確認したうえで投資規模を決定する」といった段階設計を明記すれば、承認プロセス上も筋の通った計画として通ることが多くあります。むしろ根拠のない売上目標より、検証プロセスが明確な計画の方が説得力を持ちます。
誤解2:KPIは売上を分解した数字(成約件数×単価等)にすればよい。実際には、立ち上げ初期のKPIは売上分解ではなく、顧客が本当に課題を抱えているか、継続して使い続けるかといった「検証指標」であるべきです。売上分解型のKPIを早期に置くと、まだ検証されていない前提の上に数字目標を積み上げることになり、目標未達の原因が「営業努力不足」なのか「そもそも需要がない」のか判別できなくなります。
誤解3:検証指標は感覚で決めてよく、後で調整すればいい。実際には、検証指標をあいまいなまま進めると、撤退すべきタイミングを逃したり、逆に見込みのある事業を早期に切ってしまったりする判断ミスにつながります。事業再構築補助金の指針が求める「新事業売上高10%要件」のような結果指標と、立ち上げ初期に追うべき検証指標は本来別物であり、この違いを設計段階で意識しておく必要があります。
Process
フェーズ別・目標設定の手順:0→1/1→10/10→100で検証指標からKGIへ逆算する
新規事業の目標設計は、最終的なKGI(売上高・黒字化など)から逆算しつつ、直近のフェーズでは検証指標を優先するという「逆算×手前優先」の考え方が基本になります。フェーズごとの目標の置き方は、次のような手順で整理できます。
- 0→1フェーズ(検証指標中心):顧客インタビュー件数、課題共感率、初期プロトタイプへの反応率など、事業アイデアの前提を検証する指標を置きます。「何件のヒアリングで課題共感率何%なら次工程に進むか」という基準をあらかじめ決めておくことが重要です。
- 1→10フェーズ(KPI中心):PoC継続利用率、CVR、LTV仮説の妥当性など、事業として成立しうるかを測るKPIに移行します。ここでも売上そのものより「継続して使われているか」を優先して見ます。
- 10→100フェーズ(KGI接続):黒字化、売上高、新事業売上比率といった最終的なKGIに接続します。ここで初めて、事業再構築補助金が求めるような結果指標が意味を持つ段階に入ります。
AIプロダクト開発の文脈では、PoCやMVPの段階でこの検証指標の設計が特に重要になります。実際に当社が開発・運営する製造業向けのAI受発注システム「newji」も、調達・購買業務の属人化解消という課題に対し、いきなり売上規模を追うのではなく、現場での利用継続率や業務時間の削減効果といった検証指標を積み上げながら開発を進めています。どのフェーズで何を検証指標に置くかの設計自体に迷う場合は、AIプロダクト開発支援のなかで指標設計から伴走することも可能です。なお、フェーズ区分そのものの選び方については新規事業立ち上げのフレームワークの選び方も参考にしてください。
Comparison
新規事業の目標設定を誰と設計するか|自己流・専門家・AI開発パートナーの比較
| 選択肢 | 検証指標の設計〜KGI接続までの支援範囲 |
|---|---|
| 自社のみで検討 | 柔軟に進められる一方、検証指標とKGIの接続が属人的になりやすく、撤退・継続の判断基準があいまいになりがち。 |
| 中小企業診断士・コンサルティング | 事業計画全体の整合性や資金計画には強いが、AIプロダクトのPoC設計など技術的な検証指標の具体化までは踏み込みにくい場合がある。 |
| 補助金申請支援(事業計画テンプレート) | 「新事業売上高10%要件」など結果指標の書き方は整うが、立ち上げ初期に追うべき検証指標の設計まではテンプレートではカバーしきれないことが多い。 |
| オプティソースのAIプロダクト開発支援 | 検証指標の設計からMVP・PoCの実装、指標に基づく次工程判断までを一気通貫で伴走。ただし事業計画全体の資金計画や補助金申請の書類作成そのものは対象外。 |
FAQ
新規事業の目標設定に関するよくある質問
検証指標はいつ売上目標に切り替えるべきですか?
0→1フェーズで課題共感やPoC継続利用が一定水準確認でき、1→10フェーズのKPI(CVR・LTV仮説など)も安定して推移し始めたタイミングが目安です。検証が不十分な段階で売上目標に切り替えると、需要不足を営業努力不足と誤認するリスクがあります。
KPIとKGIは何が違うのですか?
KGIは事業として最終的に達成したいゴール(売上高・黒字化など)、KPIはそのゴールに至る過程で事業が健全に進んでいるかを測る中間指標です。新規事業では、KGIに至る手前に検証指標というさらに手前の段階の指標を置くことがポイントになります。
補助金の要件と自社の検証指標が食い違う場合はどうすればよいですか?
事業再構築補助金の「新事業売上高10%要件」のような結果指標は計画期間終了時点のゴールであり、立ち上げ初期の検証指標とは役割が異なります。申請書上はKGIとして結果指標を明記しつつ、社内運用では別途、直近フェーズの検証指標を管理する二層構造にするのが実務的です。
目標未達のとき、指標自体を見直してもよいですか?
見直すべきです。検証指標は仮説に基づいて設定するものなので、市場の反応から仮説が誤っていたと判明した場合は、指標そのものを修正することが健全な進め方です。ただし指標を頻繁に変えすぎると比較ができなくなるため、変更の理由と根拠は記録しておくことをおすすめします。
AIプロダクト開発の検証指標設計だけを相談することはできますか?
可能です。MVPやPoCの実装そのものだけでなく、その前段階である「何を検証指標とし、どの水準で次工程に進むか」という設計部分から相談いただけます。
新規事業の目標設定は、売上目標を最初に掲げることではなく、フェーズごとの検証指標を積み上げてKGIへ逆算接続していく設計プロセスです。松浪硝子工業の事例が示すように、足下の売上目標にとらわれ続けると投資判断を誤りますが、長期目線からのマイルストーン設計に切り替えることで改善の道筋が見えてきます。自社の新規事業がどのフェーズにあり、次に何を検証指標として置くべきか整理したい場合は、お気軽にご相談ください。

