社内で新しい事業を立ち上げるとき、「社内の一部門として進めるか、子会社にするか」で迷うことがあります。ただ、形を選ぶことそのものより、その前に決めておくことが抜けていると、どちらの形でもつまずきやすくなります。この記事では、中小企業白書の分析をもとに、社内ベンチャーと子会社の違い、よくあるつまずきの型、立ち上げ前に決めておく4つのことを整理します。
この記事の結論
- 慣れない分野(異業種)に入るときについて、中小企業白書2017年版は2016年版の分析を紹介し、「社内の体制を変える方法」と「子会社を新しく作る方法」をそれぞれほかの戦略と比べています。どちらの形でも、異業種に入るときは成功の割合が低いと示されています。
- つまずきの型には、やめる基準がない、既存事業と同じ物差しで評価する、本社の費用の配り方が決まっていない、判断する人が決まっていない、人と予算が兼務で中途半端、などがあります。
- 新事業展開に成功した企業のほうが、「市場ニーズの把握が不十分」などを課題と感じる割合が低いと白書は分析しています。形を決める前に、顧客の課題を確かめます。
- 立ち上げ前に、やめる基準、評価の物差し、費用の配り方、判断する人の4つを決めておきます。
形を変えるだけでは成功しにくい:白書の分析
少し前の調査ですが、中小企業白書2017年版は、新事業展開の戦略を「新市場開拓」「新製品開発」「多角化(今の事業を続けながら別の分野に出ること)」「事業転換(主な事業を別の分野に移すこと)」に分けて分析し、多角化と事業転換は、ほかの戦略と比べて成功する割合が低いとしています[1]。そのうえで注記として、2016年版の白書では、「社内体制変更による異業種への参入」「新規子会社設立を伴う異業種への参入」「M&Aや他社からの事業譲渡を通じた新規事業への参入」の成功割合が、ほかの戦略と比べて低いことが示されていると紹介しています[1]。
慣れない分野に入るときは、社内の体制を変える方法と子会社を作る方法の2つとも、成功の割合が低いということです。同じ白書によると、新しい分野を選ぶとき、多角化に成功した企業は「多額の投資を必要としない」ことを、事業転換に成功した企業は「連携相手がいる」ことを、成功していない企業より重視する傾向があります[1]。形を決めるのとあわせて、投資の大きさと、誰と組むかも先に考えておくとよいでしょう。
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Patterns
社内ベンチャーのつまずきの5つの型
社内で新しい事業を始めたときに起きやすいつまずきを、型に分けて整理します。どれも1つだけで起きるとは限らず、重なって起きることもあります。
| 型 | 起きること | 先に決めておくこと |
|---|---|---|
| やめる基準がない | 「もう少し続ければ」が繰り返され、やめる時期を誰も言い出せない | いつまでに、何の数字を見て判断するか |
| 既存事業と同じ物差し | 立ち上げの時期から、既存事業と同じ売上や利益率で評価される | 段階ごとに見る数字(顧客の反応、試した数など) |
| 費用の配り方が決まっていない | 本社の共通の費用が新事業にも割り振られ、赤字が実際より大きく見える | どの費用を新事業に負担させるか |
| 判断する人が決まっていない | 経営陣の理解が途中で揺らぎ、続けるかやめるかが決まらない | 誰が、いつ、続けるかやめるかを決めるか |
| 人と予算が中途半端 | 本業との兼務が前提で、新事業に使える時間が足りない | 専任にするか、兼務なら週に何時間使うか |
人の不足は、中小企業に広く見られる課題です。中小企業基盤整備機構が全国の中小企業1,000社に2025年12月に聞いた調査では、DXに取り組むうえでの課題として「ITに関わる人材が足りない」が28.3%で最も多く、「予算の確保が難しい」が26.0%で続きました(複数回答)[2]。従業員20人以下の会社(522社)に限ると、「予算の確保が難しい」が28.1%で最も多い課題でした[3]。これはDXについて聞いた調査です。新事業については、中小企業白書2017年版が、戦略の違いにかかわらず人材不足、コストの負担、販路開拓の難しさといった課題が多く挙げられているとしています[1]。
Comparison
社内ベンチャーと子会社の違い
会社法は、子会社を、ある会社が総株主の議決権の過半数を持つ(株主総会で票の半分より多くを持つ)株式会社など、その会社が経営を支配している法人と定めています(第2条第3号)[4]。社内ベンチャーは会社の中の一部門、子会社は別の法人です。この違いから、次のような差が出ます。
| 観点 | 社内ベンチャー(社内の部門) | 子会社(別の法人) |
|---|---|---|
| 立ち上げの手間 | 社内の手続きで始められる | 会社の設立の手続きと費用がかかる |
| 決める速さ | 本社の決裁の流れに乗る | 子会社の中で決められる範囲を広くしやすい |
| 費用と成果の見え方 | 本社の会計の中にあり、費用の配り方で数字が変わる | 別の会社として、費用と成果を分けて見やすい |
| やめるとき | 部門を閉じる | 会社をたたむ・売るなどの手続きが要る |
子会社にすれば、やめる基準や評価の物差しが自動で決まるわけではありません。どちらの形でも、次の節の4つを決める作業は残ります。税金や会計の扱いも形によって変わるので、子会社を考えるときは、顧問の税理士などに先に確かめます。
Market
形を決める前に、顧客の課題を確かめる
中小企業白書2017年版は、新事業展開の課題として「自社の強みを活かせる事業の見極めが難しい」「市場ニーズの把握が不十分」「自社の情報発信が不十分」の3つを挙げ、新事業展開に成功した企業のほうが、これらを課題と感じる割合が低いとしています[1][5]。
新事業を考えた背景を見ると、成功した企業では「新しい柱となる事業の創出」が67.9%、「顧客・取引先の要請やニーズへの対応」が64.9%で、成功していない企業より高くなっていました[1]。成功していない企業では「他社との競争激化」(48.1%)や「既存市場の縮小・既存事業の業績不振」(46.2%)が、成功した企業より高い割合でした[1]。白書は、成功していない企業は市場の縮小や競争の激化をきっかけに検討を始める傾向があり、成功した企業は顧客からの要請や新しい収益源づくりをきっかけに検討する傾向があると推察しています[1]。形を決める前に、小さく試して顧客の反応を確かめておくと、どちらの形を選ぶ場合も判断の材料になります。
Checklist
立ち上げ前に決める4つのこと
- やめる基準:いつまでに、何の数字(売上、利用の数、顧客の反応など)を見て続けるかやめるかを決める。
- 評価の物差し:既存事業の売上目標とは切り離し、段階ごとに見る数字を決めておく。
- 費用の配り方:本社の共通の費用をどこまで新事業に負担させるかの取り決め。
- 判断する人:続けるかやめるかを決める人と会議。
やめる基準をフェーズ別に決める方法は新規事業の撤退基準の記事で、誰もが使う決まった基準の数字がない中で、顧客の反応から段階を見極める考え方は「PMFコンサルに何を頼むか」でも紹介しています。社内で事業計画を説明するときの数字の組み立ては、事業計画書のテンプレート(Excel)が下敷きに使えます。
FAQ
よくある質問
子会社にしたほうが、新事業は成功しやすいですか?
そうとは限りません。中小企業白書は、異業種に入る方法のうち、子会社を新しく作る方法と社内の体制を変える方法の2つは、ほかの戦略より成功の割合が低いという2016年版の分析を紹介しています[1]。
社内ベンチャーのやめる基準は、いつ決めればよいですか?
始める前に決めておきます。始めてから決めようとすると、それまでにかけた費用が気になって、判断が遅れることがあります。
社内ベンチャーの評価は、何で行えばよいですか?
立ち上げの時期は、既存事業と同じ売上や利益率ではなく、顧客の反応や試した数など、段階に合った数字で見ます。どの段階で売上を見るように切り替えるかも、先に決めておきます。
新事業を始める前に、何から確かめればよいですか?
顧客の課題です。白書は、新事業展開に成功した企業のほうが「市場ニーズの把握が不十分」を課題と感じる割合が低いと分析しています[1][5]。
Sources
参考にした資料
- 2017年版 中小企業白書 第2部第3章第2節 2 新事業展開の成否の実態(中小企業庁・2017年4月)
- 中小企業のDX推進に関する調査(2025年)調査結果のポイント(中小企業基盤整備機構・2026年2月)
- 中小企業のDX推進に関する調査(2025年)報告書(中小企業基盤整備機構・2026年2月)
- 会社法(平成17年法律第86号)(e-Gov法令検索・2026年11月2日確認)
- 2017年版 中小企業白書 第2部第3章第3節 1 マーケティング活動の実態と課題(中小企業庁・2017年4月)
社内ベンチャーか子会社かを選ぶ前に、やめる基準・評価の物差し・費用の配り方・判断する人の4つを決めておくと、どちらの形を選んでもつまずきにくくなります。白書の分析では、慣れない分野に入るときは、どちらの形でも成功の割合が低いと示されています。顧客の課題を小さく確かめるところから相談したい場合は、お気軽にご連絡ください。

