新規事業を考えるときに、まずSWOT分析をやってみる会社は多いと思います。ところが、4つのマスを埋めたあとで「で、何をすればいいのか」が出てこないことがあります。強みと機会が混ざっていたり、何の事業について書くのかが決まっていなかったりすると、マスは埋まっても打ち手につながりません。この記事では、SWOT分析のやり方を、中小企業の新規事業の架空の例で順に説明します。特に、よくある「強みと機会の取り違え」の見分け方を詳しく扱い、クロスSWOTで強み×機会などの組み合わせから打ち手を出すところまで進めます。
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この記事の結論
- 最初に「どの事業を、どのお客様に向けて考えるか」を1文で決め、外の変化(機会・脅威)から書き出す
- 強みと機会の取り違えは「自社という会社がなくなっても、それは残るか」で見分ける。これから取る行動は、強みでも機会でもなく打ち手に回す
- 強みは社内の話し合いだけで決めず、競合との比較や受注の記録、お客様の声で裏付ける
- クロスSWOTで強み×機会など4つの組み合わせから打ち手を出し、1〜2個に絞る
- 打ち手はまだ仮説なので、何を確かめれば進めてよいかを決め、小さく試してから判断する
SWOT分析は「埋めて終わり」になりやすい
新規事業では、「自社の強みは何か」と「外で何が起きているか」を結びつけるところでつまずきがちです。強みが社内の思い込みのままだったり、外の動きが自社と関係のない一般論だったりすると、どの事業を選べばよいかが決まりません。
SWOT分析は、この2つを1枚に並べる道具ですが、並べただけでは答えは出ません。中小企業基盤整備機構(中小機構)の解説でも、SWOT分析で整理した内部と外部の要素を組み合わせる「クロスSWOT分析」で、取るべき戦略を考える流れが示されています[1]。
大切なのは、4つのマスを正しく分けて書くことと、そのあと組み合わせて打ち手を出すことです。
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Overview
SWOT分析とは:内と外、良い面と悪い面で4つに分ける
SWOT分析は、自社の状況を「強み(Strengths)」「弱み(Weaknesses)」「機会(Opportunities)」「脅威(Threats)」の4つに分けて整理する方法です。英語の頭文字を並べてSWOTと呼びます。強みと弱みは自社の中の話(内部環境)、機会と脅威は自社の外で起きている話(外部環境)です[1]。だれが考えたかははっきりしないとされてきましたが、2023年に発表された研究は、ロバート・フランクリン・スチュワート氏を考案者とし、元は「SOFT」と呼ばれた手法だったと報告しています[2]。
| 要素 | 内か外か | 書くときの問い |
|---|---|---|
| 強み(S) | 内部・自社が持っているもの | 狙うお客様が、他社ではなく自社を選ぶ理由になるものは何か |
| 弱み(W) | 内部・自社が持っているもの | 狙うお客様に選ばれない理由、または事業を進めるときに足りないものは何か |
| 機会(O) | 外部・自社では変えられないもの | 世の中や市場の変化のうち、自社にとって追い風になるものは何か |
| 脅威(T) | 外部・自社では変えられないもの | 世の中や市場の変化のうち、自社にとって向かい風になるものは何か |
どの問いにも「狙うお客様」や「自社にとって」が入っています。同じ特徴でも、狙う市場が変われば強みにも弱みにもなるので、何の事業をだれに向けて考えるかを先に決めます。
How to
SWOT分析のやり方(6つの手順)
新規事業で使うときは、次の順番で進めます。
- 対象を1文で決める:「どの事業を、どのお客様に向けて、いつまでに始めるか」を1文で書きます。会社全体のSWOTと新規事業のSWOTは別物です。
- 外部(機会・脅威)から書く:自社の得意なことを先に書くと、それに合う追い風ばかり探しがちになるので、外の変化から書き出します。
- 内部(強み・弱み)を、競合と比べて書く:「技術力がある」ではなく、「だれと比べて、何が、どれくらい違うか」まで書きます。比べる相手がいない強みは、まだ思い込みの段階です。
- 4つのマスの振り分けを確かめる:次の節で説明する「強みと機会の取り違え」がないかを、1項目ずつ確かめます。
- クロスSWOTで打ち手を出す:強み×機会、弱み×機会、強み×脅威、弱み×脅威の4つの組み合わせで、具体的な打ち手を考えます。
- 優先順位をつけ、確かめることを決める:打ち手を1〜2個に絞り、何を確かめれば進めてよいかを決めます。
1つ目の「対象を決める」で迷う場合は、先に新規事業の候補を絞っておくと進めやすくなります。自社の経営資源の棚卸しから候補を見つける方法は、新規事業の見つけ方の記事で紹介しています。
Example
SWOT分析の例:金属加工の会社が自社製品を考える場合(架空)
ここからは架空の例で考えます。従業員30人の金属加工会社A社は、物流機器メーカーの下請けとして、台車やラックの部品を作ってきました。新規事業として、物流倉庫向けの自社製品を考えています。対象の1文は「地域の中小の物流倉庫に向けて、荷物の積み下ろしを楽にする台車や道具を、1年以内に自社製品として売り始める」としました。
外の動きとしては、2024年4月から、トラック運転者などの自動車運転者にも時間外労働の上限が設けられ、臨時の事情がある場合でも年960時間までとなりました[3][4]。運転者の待ち時間や積み下ろしの時間を減らしたい、という声が倉庫や荷主の側で強まることが考えられます。また、2025年度の地域別最低賃金は全国加重平均で1,121円となり、前の年度より66円上がりました[5]。人の手間を減らす道具への関心も高まると考えられます。
| 良い面 | 悪い面 | |
|---|---|---|
| 内部 | 強み ・薄い鉄板の曲げと溶接を、1個からでも短い納期で受けられる(A社の調べでは、通販の既製品は形を変えられず、近くの同業は少ない数の注文を受けていない。受注の記録で確認済み) ・物流機器の部品を長く作ってきたので、台車が現場でどう傷むかを知っている ・3次元の設計ソフトを使える社員が2人いる | 弱み ・自社で製品を売った経験がなく、営業は元請け任せだった ・自社製品として品質に責任を持つ体制がない ・ホームページは会社案内だけで、問い合わせが来る形になっていない |
| 外部 | 機会 ・運転者の時間外労働に年960時間の上限ができた[3](積み下ろしの時間を減らしたい倉庫が増えると考えられる) ・最低賃金が全国加重平均で1,121円に上がった[5](作業の手間を減らす道具への関心が高まると考えられる) | 脅威 ・通販サイトで、似た台車が安く売られている(A社の調べ) ・元請けの物流機器メーカーも同じ分野の製品を持っており、取引に響くおそれがある |
この表は振り分けを直したあとの形です。最初の下書きには、次の節で紹介する取り違えがいくつもありました。
Pitfalls
よくある間違い:強みと機会を取り違える
SWOT分析でよくある間違いは、強み(自社の中にあるもの)と機会(自社の外で起きていること)を混ぜてしまうことです。混ざったままだと、「強み×機会」の組み合わせで同じ話が2回出るだけになり、新しい打ち手が出ません。A社の最初の下書きには、次のような項目がありました。
取り違えの例と、正しい置き場所
| 最初の下書き | 何がおかしいか | 直したあと |
|---|---|---|
| 機会:「当社は1個から作れるので、小口の注文を取れる」 | 「1個から作れる」は自社の力なので内部の話です | 強みへ移す。機会には「小口でも頼みたい倉庫がある」かどうかを、外の事実として調べて書く |
| 強み:「物流業界の人手不足で、需要が伸びる」 | 業界の動きは自社がいなくても起きる外の話です | 機会へ移す。根拠になる制度や統計を添える |
| 機会:「通販で直接売れば、利益が増える」 | これは自社がこれから取る行動で、外の変化ではありません | SWOTの表から外し、クロスSWOTの打ち手の候補に回す |
| 強み:「社員がまじめで、社長に熱意がある」 | お客様が他社と比べて選ぶ理由になっていません | 「納期を守った割合」など、比べられる形にできなければ外す |
| 弱み:「大手と比べて会社が小さい」 | 狙うお客様にとって何が困るのかが書かれていません | 「一度に大量の注文に応えられない」など、お客様から見た困りごとに書き直す |
見分けるための4つの問い
迷ったら、1項目ずつ次の問いに当てはめます。
- 自社という会社がなくなっても、それは残るか:なくなるなら内部(強み・弱み)、自社がなくても残るなら外部(機会・脅威)です。
- 競合他社にも同じように起きているか:法律の改正や人口の変化のように、どの会社にも同じように起きることは外部です。
- これからやる行動を書いていないか:「通販で売れば」「〜を始める」のように、自社がこれから取る行動を書いた文は、強みでも機会でもなく打ち手です。クロスSWOTの段階まで取っておきます。今すでにできること(「1個から作れる」など)は強みに入れてかまいません。
- お客様の言葉で言い直せるか:強みは「お客様が自社を選ぶ理由」です。お客様がそう言ってくれそうにないものは、まだ強みのマスには入れません。
強みは「社内の話し合い」だけで決めない
強みのマスは、社内の思い込みが入りやすい所です。社内で話し合うだけだと、自分たちが得意だと思っていることがそのまま強みとして書かれがちです。競合と比べた分析や、販売の記録、お客様の声など、外から見た評価も合わせて確かめます。中小機構の解説でも、強みを見つける方法として、お客様から見て選ばれる理由を考えること、競合と比べること、社外の支援者に聞くことが挙げられています[1]。
A社の例で「受注の記録で確認済み」と書いたのはこのためです。強みの横には、裏付けになる記録やお客様の声を書いておきます。
そのほかによくある間違い
何の事業について書くのかを決めていない。会社全体の話と新規事業の話が混ざると、どの項目も中途半端になります。事業ごとに表を分けます。
項目を多く書きすぎる。各マスに項目が並びすぎると、どれが大事か分からなくなります。狙うお客様への影響が大きい順に3〜5個に絞ります。
Cross SWOT
クロスSWOTのやり方:4つの組み合わせから打ち手を出す
クロスSWOTは、SWOT分析で書いた外部の項目(機会・脅威)と内部の項目(強み・弱み)を掛け合わせて、打ち手を考える方法です。この掛け合わせを表の形で示したのが、経営学者のハインツ・ウェイリック(Heinz Weihrich)氏が1982年に発表した論文で、そこでは「TOWSマトリクス」と呼ばれています[6]。日本では「クロスSWOT」と呼ばれることが多く、組み合わせは次の4つです。
- 強み×機会(SO):強みを使って、追い風を取りにいく打ち手
- 弱み×機会(WO):弱みを補って、追い風を逃さないための打ち手
- 強み×脅威(ST):強みを使って、向かい風の影響を小さくする打ち手
- 弱み×脅威(WT):弱みと向かい風が重なる所で、大きな失敗を避けるための打ち手
A社のクロスSWOTの例
| 組み合わせ | 使った項目 | 出てきた打ち手 |
|---|---|---|
| 強み×機会 | 1個から短納期で作れる ×積み下ろしの時間を減らしたい倉庫が増える | 倉庫ごとの荷物の形に合わせた専用の台車を、1台から設計して作る |
| 弱み×機会 | 自社で売った経験がない ×手間を減らす道具への関心が高まる | 地域の倉庫2〜3社に試作品を貸し出し、使った感想を集めて、売るときの材料にする |
| 強み×脅威 | 台車が現場でどう傷むかを知っている ×通販で似た台車が安く売られている | 値段では競わず、既製品では合わない形や、傷みやすい所を補強した品に絞る |
| 弱み×脅威 | 品質に責任を持つ体制がない ×元請けと製品が重なるおそれがある | 元請けの製品と重ならない範囲から始め、事前に元請けに相談する。製品の責任の範囲は専門家に確かめてから売り出す |
打ち手を絞り、確かめることを決める
A社なら、強み×機会の「専用の台車」を本命の1つに絞ります。弱み×機会の「試作品の貸し出し」は、本命を確かめる方法として使います。弱み×脅威の「元請けへの相談」は、本命を進める前に済ませておく条件として扱います。
打ち手はまだ仮説です。「倉庫は専用の台車にお金を払うか」は、表の上では分かりません。確かめたいことを1つに決め、最小限の形で試してもらう進め方はMVP開発の記事で説明しています。
Difference
PEST分析・3C分析との使い分け
中小機構の解説では、機会と脅威は、政治・経済・社会・技術といった大きな流れと、市場・競合・お客様・取引先の動きの両方から捉えるとされています[1]。その材料集めによく使われるPEST分析と3C分析との関係を、短くまとめます。
| 道具 | 主に見るもの | SWOT分析との関係 |
|---|---|---|
| PEST分析 | 政治・経済・社会・技術の大きな流れ | 機会と脅威を書くための材料集め |
| 3C分析 | お客様・競合・自社の3つ | 強みと弱みを、競合と比べて書くための材料集め |
| SWOT分析 | 集めた材料を内と外、良い面と悪い面に整理 | クロスSWOTにつなげて、打ち手を出す |
A社の例のように、制度や統計の事実を機会と脅威に落とし込む手順はPEST分析のやり方の記事で、「だれと比べて、何が違うか」を競合と並べて強みと弱みの材料をそろえる手順は3C分析のやり方の記事で説明しています。
機会と脅威の材料集めには、当社が無料で配っている「事業アイデア整理」のテンプレート(PowerPoint)に入っているPEST分析のシートも使えます。新規事業の段階ごとにどの道具を使うかは、新規事業のフレームワークをフェーズ別に選ぶ記事で整理しています。
FAQ
SWOT分析についてよくある質問
SWOT分析とクロスSWOTは何が違いますか?
SWOT分析は、自社の状況を4つに分けて整理するところまでです。クロスSWOTは、その4つを掛け合わせて「では何をするか」という打ち手を出す段階です。
強みと機会は、どう見分ければよいですか?
「自社という会社がなくなっても、それは残るか」と考えると分けやすくなります。なくなるなら自社の中にある強み、残るなら外の機会です。「通販で売れば」「〜を始める」のように、自社がこれから取る行動を書いた文は、どちらでもなく打ち手なので、クロスSWOTの段階で使います。
SWOT分析のテンプレートは、どんな形のものを使えばよいですか?
縦に内部と外部、横に良い面と悪い面をとった2行2列の表があれば十分です。紙でも表計算ソフトでも構いません。形より大事なのは、表の上に「何の事業を、だれに向けて考えるか」の1文を書いておくことと、各項目の横に根拠を書く欄を作っておくことです。
SWOT分析は、一度作れば終わりですか?
終わりではありません。機会と脅威は外の変化なので、時間とともに変わります。お客様に話を聞いたあとや、関係する制度が変わったときに見直します。
Sources
参考にした資料
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構「マンガでわかる『SWOT分析』」(2025年9月更新・2026年11月閲覧)
- Richard W. Puyt, Finn Birger Lie, Celeste P.M. Wilderom「The origins of SWOT analysis」Long Range Planning 第56巻第3号 102304(2023年)
- e-Gov法令検索「労働基準法」第140条(2026年11月閲覧)
- 厚生労働省「自動車運転者の長時間労働改善に向けたポータルサイト」トラック運転者の改善基準告示(2026年11月閲覧)
- 厚生労働省「全ての都道府県で地域別最低賃金の答申がなされました」(2025年9月)
- Heinz Weihrich「The TOWS matrix—A tool for situational analysis」Long Range Planning 第15巻第2号 54〜66ページ(1982年4月)

SWOT分析は、何の事業をだれに向けて考えるかを決めてから、外の変化と自社の中身を分けて書く道具です。よくある強みと機会の取り違えは、「自社がなくなっても残るか」という問いで防げます。強みは社内の話し合いだけで決めず、記録やお客様の声で裏付けます。そのうえでクロスSWOTで打ち手を出し、1〜2個に絞ります。本当にお客様に選ばれるかは、小さく試してから判断します。当社では、新規事業の企画から、何を確かめるかの整理、確かめたいことに絞った最初の版(MVP)づくりまで、続けてご相談いただけます。

