投資家に会う前に、事業を説明する資料(ピッチ資料)を作らなければならない。けれど、何枚くらいで、何から書き始め、どこを強く見せればよいのかが分からない。初めて資金を集めるスタートアップの多くが、ここで手が止まります。この記事では、ピッチ資料で投資家が見る所と、入れておきたい項目を、経済産業省や東京証券取引所などの公的な資料をもとに整理します。あわせて、当社があるスタートアップの投資家向けの説明資料を構成から一緒に作り、7〜8回のやりとりで磨いた記録を紹介します。資金調達の結果ではなく、資料の作り方の記録です。
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ピッチ資料は、魅力と実現できる見込みの両方を見られる
ピッチ資料は、投資家に「この会社に出資したい」と思ってもらうための資料です。ただし、魅力を大きく見せればよい、というものではありません。経済産業省が2022年4月に公表した「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」は、投資家に向けて自社の成長を説明する筋書きを「エクイティストーリー」と呼び、「事業の魅力」と「実現可能性」をバランスよく考えて作る必要がある、としています[1]。
同じガイダンスは、仮に事業の魅力を伝えて高い評価で資金を集められても、事業計画が達成できなければ、次の資金調達で投資家の事業計画への信頼が下がり、資金調達が難しくなる場合がある、と注意しています[1]。そのうえで、事業の魅力を伝える観点として「潜在的な市場規模の大きさ」と「自社技術・サービスの優位性」を、実現の見込みを示す観点として「事業計画の蓋然性(無理があり未達になる可能性が高い収益計画になっていないか)」を挙げています[1]。
つまり、ピッチ資料で磨くべきなのは、見せ方の派手さではなく、「大きな市場で、この会社が勝てる理由があり、計画に無理がない」ことを、限られた枚数で伝える筋道です。
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Checklist
投資家が見る所は、上場企業の開示項目が手がかりになる
ピッチ資料に何を入れるかには決まった様式がありません。手がかりになるのが、東京証券取引所がグロース市場の上場会社に求めている「事業計画及び成長可能性に関する事項」の開示です。東証の資料では、記載内容として、ビジネスモデル(事業の内容、収益構造)、市場環境(市場規模、競合環境)、競争力の源泉、事業計画(成長戦略、経営指標、利益計画と前提条件、進捗状況)、リスク情報が挙げられています[2]。
上場前のスタートアップがすべてをそろえる必要はありませんが、投資家が最終的に見たい項目の並びとして参考になります。特に役立つのが、数字の根拠についての考え方です。東証の資料は、市場規模について、できる限り信憑性・客観性の高いデータ(第三者機関が作成したデータなど)を使い、第三者のデータが無く自社で独自に測った数字を使う場合は、十分な根拠を持ったうえで出典や前提条件を明らかにする、としています[2]。競合の状況も、公開情報などの客観的な事実を踏まえて書くよう求めています[2]。
ピッチ資料でよく見かける「市場規模◯兆円」の一枚も、出典と、どこからどこまでを自社の市場と数えたのかが書かれていないと、投資家は数字をそのまま受け取れません。数字の大きさより、数え方が説明できるかどうかが見られています。
Market
投資の流れを知っておくと、資料の重みが変わる
資料を作る前に、いまの投資の状況も見ておきます。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)の投資動向調査では、回答した117社の集計で、2026年4〜6月にベンチャーキャピタル(VC)などが国内に投資した金額は707.5億円でした[3]。同じ調査で、段階別の内訳に答えた110社の集計から国内向けの投資件数を見ると、事業が立ち上がった直後の「アーリー」が122件(38.7%)で最も多く、さらに前の「シード」は82件(26.0%)でした[3]。
国の方針としても、スタートアップへの投資を増やす目標が掲げられています。2022年11月に決まった「スタートアップ育成5か年計画」は、スタートアップへの投資額が2017年の3,600億円から2021年の8,200億円へと5年で2.3倍に増えたことを示したうえで、5年後の2027年度に10兆円規模にすることを大きな目標としています[4]。
資金の出し手が増えても、投資家が1件ごとに見る目が甘くなるわけではありません。むしろ比べる相手が多いぶん、資料の最初の数枚で「話を聞いてみたい」と思ってもらえるかどうかが、面談の機会を左右します。
Case
ある支援先の資料を、構成から一緒に作った
ここからは当社の記録です。あるスタートアップの、投資家向けの説明資料(ピッチ資料)を、構成から全部一緒に作りました。
磨いたのは、次の3つです。
- 強調するポイント
- 投資家(VC)が見るポイント
- 入れたほうがいい項目
この資料は、7〜8回やりとりして磨きました。
当社の代表は3社の起業と2社の売却を経験しており、資金を集める側として資料を作ってきました。
この3つの観点は、上で紹介した公的な資料の考え方とも重なります。一般に、「強調するポイント」は事業の魅力をどこで見せるか、「投資家が見るポイント」は投資家が判断に使う項目に答えているか、「入れたほうがいい項目」は抜けていると面談で質問される項目は何か、という問いに言い換えられます。
ピッチ資料のレビューだけのご相談も承ります。投資家が知りたい順番に沿って、構成と数字の見せ方を一緒に直します。
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構成から作るときの進め方
ここからは一般的な進め方です。ピッチ資料を一から作るときは、いきなり見た目を整えず、次の順で組み立てると手戻りが減ります。
- 1枚1行の骨組みを作る:各ページで言いたいことを1行ずつ書き、並べて読んだときに話がつながるかを確かめます。ここで筋が通らなければ、デザインを整えても伝わりません。
- 課題と解決策を、顧客の言葉で書く:誰の、どんな困りごとを解くのか。自社の技術の説明から始めるのではなく、困っている人の側から書きます。
- 市場の大きさと数え方を書く:出典と、どこまでを自社の市場と数えたのかを添えます[2]。
- 勝てる理由を書く:競合と比べて何が違うのか、それはまねされにくいのか。競合を「いない」と書くより、比べた結果を書くほうが信頼されます。
- 計画と、その前提を書く:売上の伸び方と、その前提(単価、顧客数、解約の割合など)をそろえて示します。前提が書かれていれば、投資家は自分の見立てで数字を置き換えて考えられます。
- チームと、集めたお金の使い道を書く:なぜこのチームなら実行できるのか、集めたお金で何を確かめ、どこまで進むのかを書きます。
骨組みができたら、強調するポイントを決めます。すべてのページを同じ強さで書くと、どこが一番の売りなのかが伝わりません。投資家が最初の数枚で判断することを前提に、一番伝えたいことを前に寄せます。
Comparison
似ている資料との違い
ピッチ資料と混同されやすい資料があります。読み手と目的が違うので、同じ中身を使い回すと、どちらかで足りなくなります。
| 資料 | 主な読み手 | 見られること |
|---|---|---|
| ピッチ資料 | VCなどの投資家 | 市場の大きさ、勝てる理由、計画の無理のなさ、チーム。出資に見合う成長が見込めるか |
| 詳しい事業計画書 | 出資を前向きに考え始めた投資家 | 売上・費用の前提と月ごとの数字。ピッチ資料の数字の裏付け |
| 金融機関に出す創業計画書 | 融資の担当者 | 返済できるか。資金の使い道、自己資金、事業の見通し |
| 上場会社の「事業計画及び成長可能性に関する事項」 | 株式市場の投資家 | ビジネスモデル、市場環境、競争力の源泉、事業計画、リスク情報と、その進捗[2] |
ピッチ資料は、支援会社と一緒に作る方法もあります(当社のスタートアップ支援など)。資料を作る側の経験から、投資家に何が伝わるかを見直せますが、事業の中身と数字に責任を持つのは起業家自身です。
なお、投資家から出資を受けるときには、資料のあとに投資契約の話になります。経済産業省は、投資家とスタートアップが結ぶ投資契約で当事者が気をつける点をまとめた「スタートアップ投資契約ガイドライン」を公開しており、平成30年に作られたのち、令和4年に改訂され、令和7年に増補版が出ています[5]。資料づくりの段階から、契約で何を約束することになるのかを知っておくと、資料に書く計画の重みも分かります。
Revision
やりとりを重ねて磨くときのコツ
ピッチ資料は、1回で仕上がることはまずありません。当社の記録でも7〜8回のやりとりがありました。一般に、やりとりの回数を無駄にしないために、次のことを決めておくと進めやすくなります。
- 毎回、直す観点を1つか2つに絞る:構成、数字、言葉づかいを一度に直そうとすると、何が良くなったのかが分からなくなります。
- 投資家から出そうな質問を書き出す:質問されそうなのに資料に答えが無いところが、「入れたほうがいい項目」の候補です。
- 口で説明しないと伝わらないページを減らす:資料だけが先に送られ、読まれることもあります。資料だけで筋が追えるかを、話し手以外の人に読んでもらって確かめます。
- 数字は前提とセットで更新する:計画の数字だけを変えると、ほかのページと食い違いが出ます。前提を変えたら、関係するページをまとめて見直します。
Mistakes
ピッチ資料で起こりやすい行き違い
技術の説明から始めてしまう。作り手にとって一番語りたいのは技術ですが、投資家が最初に知りたいのは、誰がどれだけ困っていて、そこにどれだけの市場があるかです。技術は「なぜこの会社が勝てるのか」を説明するページで生きてきます。
計画を高く見せすぎる。経済産業省のガイダンスが注意しているとおり、計画が達成できなければ次の資金調達で信頼を失うことがあります[1]。強気の計画を出すなら、その前提も一緒に示し、どの前提が外れると計画がどう変わるかを説明できるようにしておきます。
投資家ごとに資料を変えない。投資家によって、得意な分野や出資する段階は違います。骨組みは同じでも、相手に合わせて強調するページを入れ替えるだけで、伝わり方が変わります。
Sources
参考にした資料
FAQ
ピッチ資料についてよくある質問
ピッチ資料は何枚くらいにすればよいですか?
決まった枚数はありません。枚数より、1枚1行の骨組みで話がつながっているかを先に確かめるのがおすすめです。細かい数字は、別に用意する詳しい事業計画書に回すと、ピッチ資料を短く保てます。
市場規模の数字は、どこから持ってくればよいですか?
できるだけ第三者が作ったデータを使い、自社で推計する場合は出典と前提条件を書きます。東京証券取引所が上場会社に求めている開示の考え方も同じです。
金融機関から借りるときの資料と、同じものを使えますか?
使い回すと、どちらかで足りなくなることが多いです。融資は返済できるかを、出資は大きく成長できるかを見るため、強調する所が違います。中身の土台は共通にしても、読み手に合わせて組み替えます。
資料のレビューだけをお願いすることはできますか?
当社のスタートアップ支援では、ピッチ資料のレビューだけといったご相談も承っています。投資家が知りたい順番に沿って、伝わる構成と数字の見せ方を一緒に直します。

ピッチ資料で磨くべきなのは、見た目ではなく、「大きな市場で、この会社が勝てる理由があり、計画に無理がない」ことを伝える筋道です。公的な資料が示す項目を手がかりに骨組みを作り、強調するポイント、投資家が見るポイント、入れたほうがいい項目の3つを行き来しながら、何度もやりとりして直していきます。当社のスタートアップ支援では、ピッチ資料のレビューに加え、事業の段階や分野に合う投資家を洗い出し、当たる順番や伝え方を整理するところまで、毎月ふり返りながら続けて一緒に進めています。

