「出資を受けると、自分の持株比率は何%まで下がってよいのか」「3分の1を持たれると何が起きるのか」。はじめて外部から出資を受ける創業者から、よく出る質問です。持株比率は、株主総会で何を決められるか、少数の株主にどんな請求が許されるかに直結します。ところが、ネット上の早見表には、条文と合わない書き方も混じっています。この記事では、持株比率の計算のしかた、比率ごとにできることを会社法の条文番号つきで整理し、出資を受けたときに比率がどう動き、だれがどの線をまたぐかを数字の例で確かめます。
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この記事の結論
- 持株比率は「持っている株÷発行済株式」で出しますが、株主総会で効くのは議決権の比率です。自己株式や単元株、議決権のない種類の株があると両者はずれます。
- 3%以上を持つ株主は、株主総会を開くよう求めたり、理由を示して会計帳簿を見せるよう求めたりできます。非公開会社では6か月の保有の条件がないので、出資を受けた直後から使えます。
- 3分の1を「超える」と特別決議を一人で否決でき、3分の2以上あれば特別決議を一人で決められます。非公開会社での新しい株の発行も特別決議です。
- 普通の取締役の解任は過半数で決まるので、3分の1では止められないのが原則です。ちょうど50%は「決められないが、止められる」状態です。
- 出資を受ける前に、今の比率と、すべて株になった場合の比率を並べて、だれがどの線をまたぐかを確かめます。定款と投資契約の取り決めもあわせて見ておきます。
持株比率は「何を決められるか」の物差しになる
株式会社では、大事なことの多くを株主総会で決めます。株主総会の決議は、原則として株の数に応じた議決権(株主総会で賛成・反対を投じる権利)の多い少ないで決まります。会社法では、株主は1株につき1個の議決権を持つのが原則とされています[1]。
そのため、だれが何%を持っているかで、社長が一人で決められることの範囲が変わります。たとえば、株の譲渡に会社の承認が必要な会社(多くのスタートアップがこれに当たります)では、新しく株を発行して出資を受けることも、株主総会で決める事項の一つです[2]。比率が一定の線を下回ると、創業者だけでは次の資金調達を決められなくなる場合があります。
もう一つ大事なのは、比率が小さい株主にも、法律で認められた権利があることです。3%を持つ株主は株主総会を開くよう求めることができ[3]、10%を持つ株主は一定の場合に会社の解散を裁判所に求めることもできます[1]。出資を受ける側は、相手に渡す比率が「どの線をまたぐか」を知っておく必要があります。
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Calculation
持株比率の計算:発行済株式と議決権の2つの物差し
持株比率は、次の式で計算します。
持株比率(%)= 自分が持つ株の数 ÷ 発行済株式の総数 × 100
発行済株式とは、会社がすでに発行して、だれかが持っている株のことです。たとえば発行済株式が10,000株の会社で、創業者が7,000株を持っていれば、持株比率は70%です。
議決権の比率とずれる3つの場面
株主総会で効いてくるのは、正確には株の数ではなく議決権の数です。多くの会社では両者は同じですが、次の場合にはずれます。
- 会社が自分の株を持っている(自己株式):会社が持つ自分の株には議決権がありません[1]。そのぶん、ほかの株主の議決権の比率は持株比率より少し高くなります。
- 単元株の定めがある:定款で単元株式数(議決権を数えるまとまり)を定めると、1単元につき1個の議決権になります[1]。単元に満たない端数の株には議決権がありません。
- 議決権のない種類の株がある:会社法では、株主総会で議決権を使える事項を制限した種類の株を発行できます[1]。こうした株は持株比率には入りますが、議決権を使えない事項については、議決権の比率に入りません。
少数株主の権利の条文も、「総株主の議決権」を物差しにするものと、「発行済株式(自己株式を除く)」を物差しにするものがあり、両方を並べて「どちらかを満たせばよい」としている条文もあります[1]。比率を確かめるときは、どちらの物差しで数えるのかを条文で見ておくと迷いません。
計算の例
発行済株式10,000株のうち、会社自身が500株を持ち、創業者が6,500株を持っているとします。持株比率は6,500÷10,000で65%です。一方、議決権のある株は自己株式を除いた9,500株なので、議決権の比率は6,500÷9,500で約68.4%になります。後で説明する「3分の2」の線を、持株比率では下回り、議決権の比率では上回っている、という状態です。
Thresholds
比率ごとにできること(会社法の条文つき)
主な線を表にまとめます。どれも「定款で別の割合を定めていない場合」の原則です。会社法の多くの条文は、定款で割合を下げたり、決議の要件を重くしたりすることを認めています[1]。実際の会社では、まず自社の定款を確かめてください。
| 比率 | できること | 条文 |
|---|---|---|
| 1株から | 役員の責任を追及する訴え(株主代表訴訟)を会社に求め、会社が60日以内に訴えなければ自分で訴える | 第847条 |
| 1%以上(または300個以上)の議決権 | 取締役会のある会社で、株主総会の議題を出す・議案の要旨を株主に知らせるよう求める | 第303条第2項・第305条第1項 |
| 1%以上の議決権 | 株主総会の手続きを調べる検査役を選ぶよう、裁判所に申し立てる | 第306条 |
| 3%以上 | 株主総会を開くよう取締役に求める(開かれなければ裁判所の許可を得て自分で開ける) | 第297条 |
| 3%以上 | 会計帳簿を見せるよう求める(理由を示す必要がある) | 第433条 |
| 3%以上 | 不正が疑われるとき、業務と財産を調べる検査役を選ぶよう裁判所に申し立てる | 第358条 |
| 3%以上 | 役員の解任案が否決されたとき、不正などを理由に解任の訴えを起こす | 第854条 |
| 10%以上 | やむを得ない事由があるとき、会社の解散を裁判所に求める | 第833条 |
| 3分の1を超える | 特別決議(3分の2以上の賛成が必要な決議)を一人で否決できる | 第309条第2項 |
| 過半数 | 普通決議と、取締役の選任・解任、監査役の選任を一人で決められる(監査役や累積投票で選ばれた取締役の解任は3分の2以上が必要) | 第309条第1項・第2項第7号・第341条 |
| 3分の2以上 | 特別決議を一人で決められる(定款の変更、非公開会社での新しい株の発行、合併、解散など) | 第309条第2項 |
| 90%以上 | 特別支配株主として、ほかの株主全員に株を売り渡すよう求める | 第179条 |
「3分の1以上」ではなく「3分の1を超える」
特別決議は、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成で成立します[1]。株主全員が出席したとすると、ちょうど3分の1を持つ株主が反対しても、残りの3分の2が賛成すれば成立します。一人で否決できるのは、3分の1を超えて持っている場合です。また、比べる相手は「出席した株主の議決権」なので、欠席する株主が多ければ、もっと少ない比率でも否決できることがあります。
取締役の解任は、原則として過半数で決まる
早見表では「3分の1を持てば取締役の解任を止められる」と書かれていることがあります。しかし会社法では、役員の選任と解任は、議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した議決権の過半数で決めるとされています[1]。特別決議が必要になるのは、累積投票(取締役をまとめて選ぶ特別な投票のしかた)で選ばれた取締役や、監査役を解任する場合などに限られます[1]。普通の取締役の解任を3分の1で止められるとは限らない点に注意してください。
非公開会社では「6か月」の条件がない
株主総会の招集の請求や株主代表訴訟などには、「6か月前から引き続き株を持っていること」という条件が付いています。ただし、すべての株について譲渡に会社の承認が必要な会社(会社法でいう「公開会社でない株式会社」で、多くのスタートアップがこれに当たります)では、この6か月の条件が外されています[1][3]。出資を受けた直後の株主でも、条件の比率を満たしていれば請求できるということです。
ちょうど50%は「決められないが、止められる」
普通決議は、出席した株主の議決権の過半数の賛成で成立します[1]。ちょうど50%を持つ株主は、一人では過半数に届かないので普通決議を通せません。一方で、残りの50%の側も過半数に届かないので、反対すれば相手の普通決議も止められます。共同創業者が50%ずつ持つと、取締役の選任のような基本的なことも、二人の意見が合わないと決まらなくなります。
特別決議より重い決議もある
株の譲渡に会社の承認を要するよう定款を変えるときは、議決権を使える株主の頭数の半数以上で、かつ議決権の3分の2以上の賛成が必要です。また、非公開会社が「株主ごとに配当や議決権の扱いを変える」定款の定めを設けるときは、総株主の頭数の半数以上で、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です[1]。株数だけでなく株主の人数も数える決議がある、と覚えておくと安全です。
Dilution
スタートアップの資金調達で比率はどう動くか
新しく株を発行して出資を受けると、発行済株式が増えるので、創業者の株数が同じでも比率は下がります。これを希薄化(薄まること)と呼びます。たとえば創業者が10,000株を持つ会社が5,000株を新しく発行すると、比率は100%から約66.7%になり、3分の2の線にちょうど並びます。
比率が下がるとき、見ておきたいのは創業者の側だけではありません。出資者の側がどの線をまたぐかで、出資者に何ができるようになるかが変わります。
- 3%以上:理由を示して会計帳簿を見せるよう求めたり、株主総会を開くよう求めたりできます[1]。非公開会社では6か月の保有期間の条件がないので、出資を受けた直後から使えます。
- 3分の1を超える:定款の変更や、非公開会社での新しい株の発行のような特別決議を、一人で否決できます[1]。出資者の賛成がないと、次の資金調達を決められない状態です。
もう一つは、まだ株になっていない権利の扱いです。ストックオプション(あらかじめ決めた値段で株を買える権利)[4]や、J-KISS(シード期の出資で使われる、あとで株に変わる新株予約権の契約の型)のような権利は、今の発行済株式には入りません。けれども、権利が使われれば分母は増えます。今の比率と、すべて株になった場合の比率の両方を並べておくと、将来どの線をまたぐかが見えます。ラウンドごとに2つの比率を並べる表の作り方は、資本政策表の作り方の記事で手順を追って説明しています。
なお、実際の出資では、投資契約や株主間契約で、法律とは別に「重要な事項は投資家の事前の承諾を得る」といった取り決めを入れることがあります[5]。この場合、比率が小さくても、契約で決めた範囲では投資家の同意が要ります。比率の表と契約の中身は、セットで確かめてください。
Checklist
出資を受ける前に確かめておくこと
比率の線を踏まえて、出資の話を進める前に次の4つを書き出しておくと、交渉の途中で慌てずに済みます。
- 今の株主ごとの株数と議決権の数:自己株式や種類株式があれば、持株比率と議決権の比率を分けて書きます。
- 出資後に各株主がまたぐ線:3%・10%・3分の1・過半数・3分の2のどれを、だれがまたぐかを確かめます。
- すべて株になった場合の比率:ストックオプションや、あとで株に変わる権利を含めた比率も並べます。
- 定款と契約の定め:定款で割合や決議の要件を変えていないか、投資契約で事前の承諾が必要な事項がないかを確かめます。
段階ごとの株数と比率を一枚にまとめる表を資本政策表と呼びます。当社では無料の資本政策表のテンプレート(Excel)を用意しているので、比率の動きを試算するときに使えます。出資を受ける相手の探し方はVCの一覧から当たる先のリストを作る記事で、投資家に見せる資料の作り方はピッチ資料の作り方の記事で紹介しています。
この記事は会社法の原則を整理したものです。実際の比率の決め方や契約の中身は、会社ごとの定款や事情で変わります。具体的な判断は、司法書士や弁護士などの専門家に確認してください。
FAQ
持株比率についてよくある質問
持株比率の計算で、分母に自己株式は入りますか?
持株比率を「持っている株÷発行済株式」で出すなら、発行済株式には会社が持つ自己株式も含まれます。ただし、自己株式には議決権がないので、議決権の比率を出すときは除きます。会社法の少数株主の権利でも、「発行済株式(自己株式を除く)」と書かれている条文があります。
持株比率が3分の1だと、どんな権利がありますか?
3分の1を超えていれば、株主全員が出席した株主総会で、特別決議(定款の変更や合併、非公開会社での新しい株の発行など)を一人で否決できます。ちょうど3分の1では、残りの全員が賛成すれば否決できません。また、普通の取締役の解任は過半数で決まる普通決議なので、3分の1では止められないのが原則です。
創業者は何%を持っていれば安心ですか?
法律の線としては、3分の2以上あれば特別決議を一人で決められ、過半数あれば取締役の選任と、普通の取締役の解任を一人で決められます(累積投票で選ばれた取締役や監査役の解任は3分の2以上が必要です)。ただ、出資を受けるたびに比率は下がるので、「いつ、どの線を下回るか」を先に試算しておくことが大切です。投資契約の取り決めでも実際の決め方は変わるため、比率だけで安心とは言い切れません。
資金調達の準備について相談できますか?
当社のスタートアップ支援では、資金調達の資料づくりや投資家探しなど、調達の準備を一緒に進めています。これまでの支援の進め方はスタートアップ支援の事例の記事で紹介しています。株の発行の登記や契約書の確認など、専門家の領域にあたる部分は、司法書士や弁護士と進めていただく形になります。
Sources
参考にした資料
- e-Gov法令検索「会社法」(平成17年法律第86号)第2条第5号・第108条・第109条・第179条・第199条・第297条・第303条・第305条・第306条・第308条・第309条・第341条・第358条・第433条・第833条・第847条・第854条(2026年11月に確認)
- 法務省「株式会社変更登記申請書 募集株式の発行(非公開会社のうち非取締役会設置会社)」記載例(臨時株主総会議事録・取締役決定書の例)(2026年11月に確認)
- 大阪地方裁判所 第4民事部(商事部)「株主総会招集許可申立ての方法等」(2026年11月に確認)
- 国税庁 タックスアンサー No.1543「税制非適格ストック・オプションに係る課税関係について」(2026年11月に確認)
- 公正取引委員会・経済産業省「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(令和4年3月31日)第3「1 出資契約の概要」(2026年11月に確認)

持株比率は「持っている株÷発行済株式」で計算しますが、株主総会で効くのは議決権の比率です。1%・3%・10%では少数株主の請求ができるようになり、3分の1を超えると特別決議を否決でき、過半数があれば取締役の選任・解任を、3分の2以上あれば特別決議を一人で決められます。出資を受ける前に、だれがどの線をまたぐかを数字で確かめておくと、次の調達で慌てずに済みます。

