資金調達を始めようとして「ベンチャーキャピタル 一覧」と検索すると、何百もの投資会社の名前が出てきます。けれど、その一覧の上から順に連絡しても、うまくいくことはまずありません。投資会社ごとに、出資する事業の段階も分野も違うからです。この記事では、VC(ベンチャーキャピタル=スタートアップに出資する投資会社)の一覧から、自社に合う相手のリストを作り、面談を申し込む順番を決める手順を、公的な資料とあわせて整理します。あわせて、当社があるスタートアップの資金調達を支援する中で、段階に合うVCを集め、順位を付けた記録を紹介します。資金調達はいまも進めているところなので、ここで書くのは手順だけです。
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VCの一覧はあっても、そのままでは使えない
VCの一覧は、探せば手に入ります。たとえば一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)は、会員のVCの社名をウェブサイトで公開しています[1]。協会の会員以外にも、事業会社がつくる投資部門(CVC)や、大学に関係する投資会社、個人の投資家(エンジェル投資家)など、出資する側はさまざまです。
問題は、一覧にあるのが「出資する会社」の名前であって、「自社に出資しそうな会社」の名前ではないことです。一般財団法人ベンチャーエンタープライズセンター(VEC)の投資動向調査で、段階別の内訳に答えた110社の集計を見ると、2026年4〜6月の国内向けの投資件数のうち、最も初期の段階の「シード」が82件(26.0%)、立ち上がった直後の「アーリー」が122件(38.7%)、事業を広げる段階の「エクスパンション」が84件(26.7%)でした[2]。どの段階に多く出資するかは、VCごとにかなり違います。シードの会社がエクスパンション中心のVCに連絡しても、話が進みにくいのはこのためです。
一覧を「自社のリスト」に変えるには、段階や分野で絞り込み、さらに優先順位を付ける作業が要ります。面談の時間は、起業家にとっても投資家にとっても限られています。合わない相手との面談を減らし、合う相手との面談に準備の時間を回すことが、リストを作るいちばんの目的です。
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Basics
先に確かめておく、出資と融資の違い
VCを探す前に、お金の集め方の違いを確かめておきます。経済産業省の「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」は、融資(デットファイナンス)を、借入などで負債として資金を集める方法で、原則として返済期限がある、と説明しています。一方、出資(エクイティファイナンス)は株式を発行して資金を集める方法で、返済はありませんが、株主は会社の所有者となり、原則として議決権を持つ、としています[3]。同じガイダンスは、VCファンドなどからの出資の場合、ファンドの期間が終わるまでに投資の回収(エグジット)が必要になる点にも触れています[3]。
つまり、融資は借りて返すお金、出資は会社の一部を持ってもらう代わりに受けるお金です。両方を組み合わせることもあります。たとえば日本政策金融公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」(融資)は、融資限度額を7,200万円としたうえで、JVCAの会員(賛助会員を除く)などから出資を受けている方(見込まれる方を含む)を、低い利率(特別利率B)の対象のひとつに挙げています[4]。VCのリストを作る前に、いまの段階で必要なのは出資なのか、融資なのか、その組み合わせなのかを決めておくと、探す相手がはっきりします。
Case
ある支援先で、段階に合うVCを集めて順位を付けた
ここからは当社の記録です。当社では、あるスタートアップの資金調達を支援しています。
まず、スタートアップの今の段階に合うVCを、AIを使って集めました。次に、集めたVCに当社の知見で順位を付け、面談を申し込む順番を決めました。
当社の代表は3社の起業と2社の売却を経験し、資金を集める側として投資家と向き合ってきました。
この記録では、集める作業と、順位を付けて順番を決める作業が分かれています。一般に、候補を集める作業はもれなく拾うことが大事で、順位を付ける作業は誰に先に会うかの判断が大事です。この2つを一度にやろうとすると、目についた有名なVCばかりがリストに残りがちなので、分けて考えると進めやすくなります。
事業の段階や分野に合う投資家を一緒に洗い出し、当たる順番や伝え方を整理します。
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VCのリストを作る手順
ここからは一般的な手順です。リストは、表計算ソフトの1行に1社ずつ並べる形で作ると、あとで並べ替えや見直しがしやすくなります。
- 自社の段階と、集めたい金額を決める:シードなのかアーリーなのか、今回いくら集めて何を確かめるのか。これが決まらないと、合うVCの条件も決まりません。
- 候補を広く集める:協会の会員一覧、各VCのウェブサイトの投資先一覧、ニュースなどから、条件に合いそうな会社を拾います。この段階はもれを減らすことを優先し、AIを使って広く集めても構いません。
- 公式の情報で確かめる:AIや二次情報で集めた内容は、古い・まちがっていることがあります。出資する段階、分野、最近の投資先、連絡の窓口は、各VCの公式サイトで確かめてから表に残します。
- 条件で絞る:段階と分野が合わない会社を外します。似た事業の競合にすでに出資している会社も、話が進みにくいことがあるので印を付けます。
- 順位を付ける:残った会社に、下の表のような観点で順位を付けます。
- 申し込む順番と、つなぎ方を決める:上位から一度に全部当たるのではなく、順番と、誰から紹介してもらうかを決めます。
Comparison
順位を付けるときの観点
順位の付け方に正解はありませんが、次のような観点を表の列にしておくと、比べやすくなります。
| 観点 | 確かめること | 順位への効き方 |
|---|---|---|
| 出資する段階 | シード・アーリーなど、自社の段階に出資しているか | 合わなければリストから外す |
| 分野 | 自社と近い分野の投資先があるか | 近い投資先が多いほど、事業を理解してもらいやすい |
| 1社あたりの出資の大きさ | 今回集めたい金額と、そのVCの出資の大きさが合うか | 大きく離れていれば順位を下げる |
| ファンドの時期 | 新しく出資できるファンドを持っているか、ファンドの期間はいつまでか | 出資の余力と、回収までの期間の見込みに関わる |
| 出資後の関わり方 | 経営への関わり方、紹介できる取引先や人材 | 自社がほしい支えと合うかで上下させる |
| つながり | 紹介してくれる人がいるか | 紹介があると面談につながりやすいので、順番を前にしやすい |
| 支援会社に順位付けを頼む(当社など) | 資金を集める側の経験から、候補の優先順位を一緒に決める | 最後に誰に会うかを決めるのは起業家自身。支援会社の順位は判断材料のひとつ |
ファンドの時期を見るのは、VCが投資家から預かったお金で出資しているからです。上で触れたとおり、VCファンドからの出資では、ファンドの期間が終わるまでに回収が必要になります[3]。VCの側の運営についても、金融庁と経済産業省が2024年11月に「ベンチャーキャピタルにおいて推奨・期待される事項(VCRHs)」を確定させています。VCが国内外の機関投資家から資金を集めることを念頭に、VC業界の発展を後押しするためのものです[5]。出資を受ける側も、相手のVCがどんな運営をしているかを確かめておく価値があります。
Order
申し込む順番を決めるときの考え方
順位を付けたら、上から順に全部へ同時に連絡したくなります。けれど一般には、少し順番を工夫したほうが、面談の質が上がります。
- 最初の数社で、説明の仕方を固める:最初の面談で出た質問をもとに、ピッチ資料や話す順番を直します。最も会いたいVCには、説明が固まってから会えるようにします。
- 紹介の経路を先に当たる:同じVCでも、紹介があるかどうかで話の聞き方が変わります。紹介してくれる人に、先に事業の説明をしておきます。
- 同じ時期にまとめる:面談の時期がばらばらだと、検討の進み方もばらばらになります。ある程度まとまった時期に面談を入れると、比べながら進められます。
- 結果をリストに書き戻す:面談で聞いた関心や断られた理由をリストに書き残すと、次の候補の順位を見直す材料になります。
出資の話が進むと、投資契約の話になります。経済産業省は、投資家とスタートアップが結ぶ投資契約で気をつける点をまとめた「スタートアップ投資契約ガイドライン」を公開しており、令和7年に増補版が出ています[6]。リストを作る段階から、契約で何を約束することになるのかを知っておくと、どのVCと組みたいかの判断にも役立ちます。
Columns
リストに残しておく列
リストは作って終わりではなく、面談のたびに書き足していく道具です。1行に1社として、少なくとも次の列を用意しておくと、途中で担当が変わっても状況が追えます。
- 会社名、公式サイトのURL、情報を確かめた日
- 出資する段階と分野、最近の投資先(公式サイトで確かめた内容)
- 順位と、その順位にした理由
- 紹介してくれる人の有無と、その人の名前
- 連絡した日、面談の日、次にやること
- 面談で聞いた関心や質問、見送りになった場合はその理由
「順位にした理由」を残しておくのは、あとで順番を見直すときのためです。理由が書かれていないと、なぜその会社を上にしたのかが分からなくなり、面談の結果を受けて順位を直すことができません。
Mistakes
リストづくりで起こりやすい行き違い
有名なVCから順に並べる。名前を知っている会社が、自社の段階や分野に合うとは限りません。段階と分野で絞ってから順位を付けます。
同じ資料を全員に送る。VCごとに関心のある分野や見る所が違います。骨組みは同じでも、相手に合わせて強調するページを入れ替えると伝わり方が変わります。
断られた理由を残さない。見送りの理由は、資料や事業の説明を直す材料です。リストに書き残し、次の面談の前に見直します。
Sources
参考にした資料
FAQ
VCのリストづくりについてよくある質問
VCの一覧は、どこで手に入りますか?
業界団体の会員一覧や、各VCのウェブサイトの投資先一覧が出発点になります。たとえば日本ベンチャーキャピタル協会は、会員のVCの社名を公開しています。ただし一覧は出資する会社の名前の集まりなので、自社の段階や分野で絞り込んで使います。
AIで集めたVCの情報は、そのまま使えますか?
候補を広く集めるのには役立ちますが、古い情報やまちがいが混じることがあります。出資する段階、分野、最近の投資先、連絡の窓口は、各VCの公式サイトで確かめてから使います。
出資と融資は、どちらを先に考えるべきですか?
いまの段階で何にお金を使い、どれだけの期間で何を確かめるのかによります。融資は返済が必要で、出資は返済が無い代わりに会社の一部を持ってもらいます。両方を組み合わせることもあるので、先に資金の使い道と時期を整理します。
投資家探しだけを手伝ってもらうことはできますか?
当社のスタートアップ支援では、事業の段階や分野に合う投資家を一緒に洗い出し、当たる順番や伝え方を整理するところからご相談いただけます。ピッチ資料のレビューと組み合わせることもできます。

ベンチャーキャピタルの一覧は、出資する会社の名前の集まりにすぎません。自社の段階と集めたい金額を決め、候補を広く集め、公式の情報で確かめ、条件で絞り、順位を付けて、申し込む順番を決める。この手順を踏むことで、一覧が「当たるべき相手のリスト」に変わります。当社のスタートアップ支援では、投資家の洗い出しと当たる順番の整理、ピッチ資料のレビューまで、毎月ふり返りながら続けて一緒に進めています。

