ものづくりのスタートアップにとって、作ってくれる工場を見つけることは大きな壁です。工場が考える「引き受けられる条件」と、スタートアップの「こう出したい」が合わないことはよくあります。やっと工場が見つかっても、試作の段階で、見積や注文の書き方といった細かなところでつまずきます。この記事では、工場探しと試作でつまずきやすい所を、ジェトロ(日本貿易振興機構)や中小機構(中小企業基盤整備機構)の資料とあわせて整理し、当社があるスタートアップの工場探しと試作を支援した記録を紹介します。
工場とスタートアップの条件がずれやすい理由
工場には、一度に作る数や、開発にかける期間について、それぞれの前提があります。設備や人の段取りを考えると、ある程度まとまった数を、決まった仕様で作るほうが引き受けやすいからです。一方、スタートアップは「少ない数で早く出して、反応を見たい」ことが多く、ここがずれやすい所です。
もう一つのずれは、「設計をどちらが持つか」です。ジェトロは、製造を外に頼む形として、OEMとODMの違いを説明しています。OEMは、委託する側が製品の詳細な設計から、製作や組み立ての図面までを受託する工場に渡し、場合によっては技術の指導も行う形です。ODMは、製品の設計から開発までを受託する側が行う形です[1]。ジェトロは同じ説明の中で、OEMやODMで生産を計画する場合は、委託する側と受託する側の権利と義務をはっきり書いた契約書を交わすことを勧めています[1]。
図面を持たないスタートアップがOEMの前提の工場に相談すると、「何を作ればよいのか」が工場に伝わりません。逆に、設計から頼める工場を選べば、図面が無くても話は進められますが、その分の費用がかかります。自社がどちらの形で頼もうとしているのかを決めないまま工場を探すと、相手選びがずれていきます。
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Search
ある支援先で、組める工場が見つかるまで
ここからは当社の記録です。当社では、あるスタートアップの、ものづくり製品の工場探しと試作を支援しました。
国内の工場からは、最低の生産数が多く、開発の期間も長い条件を出され、スタートアップの「少ない数で早く出したい」という希望とずれました。そこで、海外の工場に切り替えました。
また、断られ続けた時期もありました。理由は、専門外の工場に当たっていたことと、図面が無かったことです。同じ仕組みの製品を本業で作っている工場に絞ったところ、組める相手が見つかりました。
一般に、工場探しは「たくさん当たる」ことより「当たる相手を絞る」ことのほうが効く場合があります。専門外の工場にとっては、図面の無い相談は判断の材料が足りません。同じ仕組みの製品を本業にしている工場なら、似た製品を作ってきた経験があるぶん、相談の中身を具体的に検討してもらいやすくなります。
工場を探す入口そのものは、一般的な仕入先の探し方と変わりません。中小機構のJ-Net21は、仕入先とは紹介、インターネット検索、見本市・展示会への訪問で出会うとし、自分で探す方法として、業界の見本市・展示会に行くことや、地域の商工会・商工会議所に問い合わせることを挙げています。そして、信頼できる人から紹介してもらうのが一番だ、としています[2]。どの入口から探すにしても、「同じ仕組みの製品を本業で作っているか」を最初の条件にしておくと、断られる回数を減らせます。
Drawings
図面が無いときに、工場に何を渡すか
ジェトロは、OEMで生産を委託する場合について、製品の仕様は依頼する側が決め、受託する工場と製造委託契約(OEM契約)を結んで、仕様書、図面、原料や資材の供給、製造上の機密保持などを取り決める、と説明しています[3]。工場の側から見ると、仕様書と図面は「何を、どの品質で作るか」を判断する材料そのものです。
スタートアップが最初から正式な図面を用意するのは簡単ではありません。一般には、次のような方法で、図面の代わりになる情報を工場に渡します。
- やりたいことを文章と簡単な絵で書く:使う場面、守りたい安全の条件、大きさの目安など、決まっていることと決まっていないことを分けて書きます。
- 似た既製品を示す:工場がすでに作っている製品や部品の中で、近いものを指して「これをもとに、ここを変えたい」と伝えます。
- 決まっていないことは、工場に案を出してもらう:設計の一部を工場に任せるなら、その分の費用と、出来上がった設計の扱いを事前に確かめます。
どの方法でも、「何が決まっていて、何がまだ決まっていないか」をはっきりさせることが、工場に検討してもらうための最低限の準備になります。
Inquiry
工場への最初の問い合わせに書くこと
ここからは一般的な準備です。最初の問い合わせで工場が知りたいのは、「自社で引き受けられる話かどうか」です。次の項目を短くまとめて送ると、返事をもらいやすくなります。
- 何を作りたいか:使う場面と、似た既製品があればその例。
- どこまで決まっているか:図面や仕様書の有無、決まっていない所。
- 何を頼みたいか:試作だけか、設計の一部も頼みたいのか。
- いつまでに、どのくらいの数を試したいか:数が少ないことは隠さずに書きます。
- その工場に相談した理由:同じ仕組みの製品を作っていることなど、なぜこの工場なのかを書くと、本気の相談だと伝わります。
仕様の整理から試作、製造を任せる工場探しまで、ものづくりの立ち上げを支援します。
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試作で決めたこと
ここからは再び当社の記録です。この支援先では、形の案を2つ並べてお客様に選んでもらい、安全を優先して機能を1つ見送りました。
外観のデザインまで工場に頼むと、見積が大きくふくらみました。そのため、工場が持っている部品をもとに作る方針に変えました。
まだ売れるかどうか分からない製品だったため、まず最小の機能で試作品を作ることにし、その手配は当社が行いました。お客様が実際に使ってみると、机の上で気にしていた点は問題なく、いちばんの課題は別の所にありました。
試作を通して仕様が決まり、次の段階へ進みました。
机の上では分からないことが見つかるのが、試作の役割です。机の上の検討では、気になる点を全部つぶそうとして時間がかかりますが、実物を使ってみると、本当に手を入れるべき所が別にあることが分かります。中小機構のJ-Net21も、商品開発をすべて自社の生産設備や技術でまかなうことにこだわる必要はなく、どうしても自社で押さえておきたい技術以外は、協力企業など外部への委託も考えながら進めるよう勧めています。そのうえで、想定するターゲットや社内の評価者に試作品を試してもらい、改良点を見つけて作り直し、テストを繰り返して完成に近づける流れを紹介しています[4]。
デザインや機能をすべて自前で決めようとすると、試作までの時間も費用もふくらみます。工場が持っている部品や経験を使えるところは使い、自社が決めるべきこと(誰が、どんな場面で、何のために使うか)に力を集めると、試作の回数を重ねやすくなります。
Orders
注文と値段のやりとりで気をつけたこと
この支援先では、消耗品の数の書き方が2通りに読める注文になり、合計がずれたことがありました。それからは、数を「変更後の総数」で書くようにしました。
値下げを頼むときは、理由を付けて頼むようにしました。
一般に、海外の工場とのやりとりでは、言葉や商習慣の違いから、日本語どうしなら通じる書き方が通じないことがあります。注文書やメッセージでは、次の点を決めておくと読み違いが減ります。
- 数は「追加分」ではなく「変更後の総数」で書く:「あと◯個」と書くと、すでに頼んだ数に足すのか、合計がその数なのかが読み手によって変わります。
- 変更したら、変更前と変更後を並べて書く:どこが変わったのかを相手が探さなくて済むようにします。
- 相手に復唱してもらう:注文を受けた側に、数と仕様を書き返してもらい、こちらで確かめてから進めます。
- 値段の相談には理由を添える:仕様を簡単にした、数をまとめた、など、値段を見直してもらえる理由を一緒に伝えます。
Comparison
工場への頼み方の比較
工場への頼み方には、いくつかの形があります。どれが良いかは、自社がどこまで設計できるか、どれくらい早く試したいかで変わります。
| 頼み方 | 向いている場合 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 図面を渡して作ってもらう(OEMの形) | 設計が自社で固まっている | 図面と仕様書を用意する手間がかかる。図面が無いと工場が判断しにくい |
| 設計から頼む(ODMの形) | 設計の力が自社に無い、早く形にしたい | 設計の費用がかかる。出来上がった設計の扱いを事前に決める |
| 工場が持つ部品をもとに作ってもらう | 試作を早く安く進めたい | 部品に合わせて仕様を決めることになる。外観や細かな機能は自由に選べないことがある |
| 国内の工場に頼む | やりとりのしやすさを重視したい | 最低の生産数や開発の期間の条件は工場ごとに違う。先に確かめる |
| 海外の工場に頼む | 条件の合う工場を広く探したい | 言葉や商習慣の違いによる読み違いに気をつける。契約と秘密の守り方を決める |
| ものづくりの支援会社と進める(当社など) | 仕様の整理から試作、工場探しまでを一緒に進めたい | 何を作るか、どこを優先するかを決めるのはスタートアップ自身 |
Secrets
アイデアや技術を守る準備
工場に相談するときは、製品のアイデアや仕様を相手に見せることになります。上で紹介したとおり、ジェトロはOEM契約で製造上の機密保持を取り決めるとしています[3]。契約の前でも、何を見せ、何を見せないかを決めておくと安心です。
社内で秘密の扱いを整えるときには、公的な相談先もあります。独立行政法人工業所有権情報・研修館(INPIT)の「知財戦略エキスパート・デスク(旧・営業秘密支援窓口)」は、知財を活用した海外展開や営業秘密の管理などの相談に応じる窓口で、相談は無料としています[5]。工場探しを始める前に、守るべき情報が何かを書き出しておくと、相手に見せる資料も作りやすくなります。
Sources
参考にした資料
FAQ
スタートアップのものづくりについてよくある質問
工場に断られ続けるときは、何を見直せばよいですか?
当たっている工場が、その製品を本業として作っているかを見直します。本文の支援先では、専門外の工場に当たっていたことと図面が無かったことが断られた理由で、同じ仕組みの製品を本業で作っている工場に絞って、組める相手が見つかりました。
図面が無くても、工場に相談できますか?
相談はできますが、図面を前提にしている工場にとっては判断の材料が足りません。決まっていることと決まっていないことを分けて書き、似た既製品を示すなど、図面の代わりになる情報を用意します。設計から頼める工場を選ぶ方法もあります。
試作では、何を確かめればよいですか?
実際に使ってみて、本当の課題がどこにあるかを確かめます。本文の支援先では、机の上で気にしていた点は問題がなく、いちばんの課題は別の所にありました。
工場への注文で気をつけることはありますか?
数は「変更後の総数」で書くと、読み違いを防げます。本文の支援先では、2通りに読める書き方で合計がずれたことがありました。変更前と変更後を並べて書き、相手に復唱してもらうと、さらに確実です。
ものづくりのスタートアップでは、工場との条件のずれ、図面が無いことによる行き違い、試作で見つかる本当の課題に、一つずつ向き合うことになります。本文の支援先では、同じ仕組みの製品を本業にしている工場に絞って相手を見つけ、試作を通して仕様が決まり、次の段階へ進みました。当社のスタートアップ支援では、仕様の整理から試作、製造を任せる工場探しまで、毎月ふり返りながら続けて一緒に進めています。

