「あの業務は〇〇さんしか分からない」「その人が休むと処理が止まる」——事務の現場でこうした声を聞いたことがある社長や事務担当の方は少なくないと思います。これは個人の能力の問題ではなく、業務のやり方や判断基準が特定の人の頭の中にしか存在していない「属人化」という状態です。多くの会社がこの解消のためにマニュアルや手順書を作りますが、それだけでは解消しきれないケースが実は多くあります。この記事では、事務で属人化が起きやすい理由と、手順書だけでは不十分な理由、そして判断基準そのものを仕組みに持たせるという考え方を整理します。
業務属人化とは何か|定義とまず押さえておきたい前提
業務属人化とは、特定の業務のやり方や判断基準を、特定の人しか知らない・理解していない状態を指します。単に「忙しい」「人手が足りない」という状況とは別に、教育に時間を割けないまま日々の業務を回しているうちに、いつの間にか一人のやり方が標準になってしまうことが事務の現場ではよく起こります。株式会社kubellパートナーが中小企業のバックオフィス担当者86名を対象に行った調査では、現在の課題として最も多く挙げられたのが「属人化による業務のブラックボックス化」で55.8%、次いで「担当者の退職・休職に伴う業務継続のリスク」が47.7%という結果になっています(株式会社kubellパートナー調査)。属人化は単なる引き継ぎの手間ではなく、担当者が一人いなくなるだけで業務が止まりかねない経営リスクとして捉える必要があります。
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Reality
事務で起きやすい属人化の3つの実態|Excel・暗黙の手順・取引先ごとの例外
事務の属人化には、よく見られるパターンがいくつかあります。1つ目は、その人しか分からないExcelのマクロや関数です。NTTデータビジネスブレインズが営業事務担当者221人を対象に行った調査では、「誰が作ったか分からない謎のマクロや複雑な関数の解読・修正に苦労した経験がある」人が64.2%(「たまにある」52.1%+「よくある」12.1%)に上りました。異動や退職のたびに、作成した意図が分からない数式やマクロだけが残り、後任者が手探りで解読するという状況が多くの会社で起きています(NTTデータビジネスブレインズ調査(@IT掲載))。2つ目は、明文化されていない暗黙の処理手順です。「なぜこの順番でやるのか」という背景が本人の頭の中にしかなく、形だけ真似しても抜け漏れが生じます。3つ目は、取引先ごとの例外ルールです。締め日やフォーマット、連絡方法が取引先ごとに微妙に違い、その差異を把握しているのが一人だけ、というケースも珍しくありません。当社では、取引先ごとに形の違うFAXの注文書をAIで読み取り、今のエクセルの受注表に入れる仕組みを作って、動画で公開しています(動画の注文書は架空の見本です)。取引先ごとの書式の違いを、人の記憶ではなく仕組みで吸収する一つの例です。
心当たりのある業務が1つでもあれば、まずは現状をお聞かせください。
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マニュアルを作ったのに解消しない理由|よくある3つの誤解
誤解1:マニュアルさえ作れば誰でも引き継げる。実際には、マニュアルは「通常パターン」しか書けないことが多く、例外対応や「なぜそうするのか」という背景が抜け落ちてしまいます。結果として、マニュアルに載っていない状況が起きるたびに元の担当者に確認が必要になり、引き継ぎが進みません。
誤解2:手順書通りにやれば安全。実際には、例外的な判断が文章として書き切れず、後任者が「これは手順書のどのケースに当たるのか」を迷ったまま自己判断で進めてしまい、かえってミスが増えることがあります。手順書は万能な正解集ではありません。
誤解3:一度作れば更新しなくてよい。実際には、取引先のルールや社内の運用は少しずつ変化していきます。更新を怠ると手順書は徐々に現場の実態からずれていき、結局は担当者の頭の中にある最新のやり方が「本当のマニュアル」になってしまいます。
Process
『手順書』ではなく『仕組み』に判断基準を持たせる考え方
属人化を解消するために必要なのは、手順を文章で説明することではなく、判断基準そのものをワークフローや入力規則、チェックリストの条件分岐の中に組み込むことです。「この条件ならこう処理する」という判断を、人の記憶に頼るのではなく、システムやルールの側に埋め込んでおくイメージです。進め方としては、次のような順序で小さく始めるのが現実的です。
- 業務の棚卸し:今誰が何をどの順番でやっているか、例外的な対応も含めて書き出します。
- 判断基準の言語化:「なぜその処理をするのか」「どんな条件で例外対応になるのか」を、担当者本人に聞きながら言葉にしていきます。
- 仕組みへの落とし込み:言語化した判断基準を、入力フォームの必須項目やチェックリストの分岐、承認ルールなどの形に落とし込み、誰が操作しても同じ判断にたどり着けるようにします。
Comparison
属人化解消の進め方を比較する
| 進め方 | 例外対応・引き継ぎのしやすさ |
|---|---|
| 手順書・マニュアル整備のみ | 通常パターンは引き継ぎやすいが、例外対応や背景の理解が抜けやすく、結局は元担当者への確認が発生しがちです。 |
| 担当者依存のまま放置 | 短期的には業務が回りますが、退職・休職時のリスクが残り続け、将来的な負担が先送りされるだけになります。 |
| ツール導入のみ(RPA等単体導入) | 定型作業の自動化には有効ですが、判断基準自体が整理されていないと、例外が起きたときに人の対応に戻ってしまいます。 |
| オプティソースの『事務作業の自動化』 | 判断基準そのものを仕組みに組み込むため例外対応力は高めやすい一方、業務の棚卸しや言語化に一定の対話の時間がかかります。 |
FAQ
よくある質問
属人化とマニュアル化は何が違うのですか?
マニュアル化は「やり方を文章で残す」ことですが、属人化の解消には「判断基準をなぜそうするかの背景ごと仕組みに持たせる」ことが必要です。マニュアルはその一部にすぎません。
従業員の少ない中小企業でも仕組み化は必要ですか?
むしろ少人数の会社ほど、一人が休むだけで業務が止まるリスクが大きいため、仕組み化の効果を実感しやすいと考えられます。大がかりなシステムでなくても、入力ルールやチェックの仕組みから始められます。
ツールを使わなくても仕組み化はできますか?
Excelの入力規則やチェックリストの条件分岐など、既存の道具だけでもある程度の仕組み化は可能です。ただし取引先ごとの例外が多い業務では、専用の仕組みを組んだほうが後の維持がしやすくなります。
どの業務から着手すべきですか?
退職・異動のリスクが高い業務や、特定の人にしか判断できない例外対応が多い業務から優先的に棚卸しすることをおすすめします。まずは現状の業務の流れをお聞かせいただければ、優先順位について一緒に整理できます。
事務の属人化は、特定の人しか業務のやり方や判断基準を知らない状態から生まれます。Excelの謎の関数、明文化されていない手順、取引先ごとの例外ルールといった事務特有のパターンは、マニュアルを作るだけでは解消しきれません。例外判断や「なぜそうするか」という背景を、人の記憶ではなく仕組みの側に持たせていくことが、属人化解消の現実的な進め方です。まずは自社のどの業務にその種が潜んでいるか、棚卸しから始めてみてはいかがでしょうか。

