「帳簿の在庫と倉庫の在庫が合わない」「エクセルの在庫表を開くたびに誰かが上書きしている」。在庫管理システムを探し始めるきっかけは、たいていこうした小さな困りごとです。ところが比較サイトを開くと製品の一覧と順位が並び、どれが自社に合うのかは分かりにくいままです。この記事では、製品を選ぶ前に決めておく順番として、エクセルで足りる段階と限界のサイン、既製のクラウドと自社で作る場合の分かれ目、確かめる機能、費用の考え方、導入の手順を整理します。
この記事の結論
- 製品を比べる前に、品目の数・1日の入出庫の件数・在庫を触る人数と場所・期限やロットの有無を紙1枚に書き出す。これが比べるときの物差しになる
- 在庫表を更新する人が3人以上いる、ファイルの間で同じ数字を打ち直している、棚卸の差の原因が追えない、在庫の無い商品が売れてしまう(売り越し)、関数やマクロを直せる人がいない。このうち2つ以上に当てはまれば、システムを検討する時期です
- 在庫の動きが一般的なら既製のクラウドから試す。合わない部分が売上や出荷の中心にあるなら、自社で作る選択肢も比べる
- 費用は5年の総額(初期費用・月額や保守・機器・データ移行・社内の手間)で比べ、品目や利用者が増えたときの月額と解約時のデータの受け取り方を書面で確かめる
- 在庫の金額の計算方法が、届け出た評価方法と合うかを導入前に顧問税理士と確かめる
製品の比較より先に、自社の在庫の動きを書き出す
在庫管理システムの比較表には、入出庫・棚卸・バーコード・発注点といった機能が並びます。多くの製品がこれらを備えているため、表を見比べても差が見えにくくなります。差が出るのは、自社の在庫の動き方に合うかどうかです。
たとえば、同じ「在庫管理」でも次のように中身が違います。
- ネットショップと店舗で同じ商品を売り、どちらで売れても在庫を1つ減らしたい
- 食品を扱い、賞味期限の近いものから出荷したい
- 部品を仕入れて組み立て、完成品として出荷する(部品の在庫と完成品の在庫が連動する)
- 倉庫が2か所あり、拠点の間で在庫を移す
どの動きがあるかで、必要な機能も、エクセルで続けられる期間も変わります。最初の作業は、品目の数、1日の入出庫の件数、在庫を触る人数と場所、扱う商品の特徴(期限・ロット・製造番号の有無)を紙1枚に書き出すことです。この紙が、あとで製品を比べるときの物差しになります。
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Excel
エクセルで足りる段階と、限界のサイン
品目が少なく、在庫を更新する人が1〜2人なら、エクセルの在庫表で十分に回ることがあります。エクセルのワークシートは1枚で1,048,576行、16,384列まで扱えます[1]。行数そのものが先に足りなくなることは、中小企業の在庫表ではあまりありません。
つまずきやすいのは、量より「同時に触る人」と「つながり」です。エクセルで複数の人が同時に編集するには、Microsoft 365 のサブスクリプションがあり、ファイルを OneDrive や SharePoint Online に置く必要があります。共同編集に対応していない版のエクセルで誰かが開くと、ほかの人にロックのエラーが出ることがあると、マイクロソフトの公式ページに書かれています[2]。社内のファイルサーバーに置いた在庫表を何人もで更新している場合は、ここで食い違いが起きやすくなります。
エクセルの限界のサイン
- 在庫表を更新する人が3人以上になり、誰の数字が最新か分からなくなる
- 受注・出荷・在庫が別々のファイルにあり、同じ数字を何度も手で打ち直している
- 棚卸のたびに帳簿との差が出て、原因が追えない
- ネットショップなど売り場が増え、売れたあとに在庫を手で減らすまでの間に、在庫が無い商品まで売れてしまう(売り越し)
- 担当者が休むと、在庫表の関数やマクロを誰も直せない
このうち2つ以上に当てはまるなら、システムを検討する時期です。1つだけなら、まず入力のルールを決め直し、それでも解消しなければ検討に進みます。1つも当てはまらないなら、入力のルールを決め直すだけで足りることもあります。エクセルで台帳を作るときの、入力の決まりや重複の防ぎ方は、顧客管理エクセルで顧客台帳を自作する方法の記事で紹介しています。顧客を品目に置き換えれば、在庫表でも同じ考え方が使えます。
Comparison
エクセル・既製のクラウド・自社で作る、の分かれ目
選択肢は大きく3つです。既製のクラウドとは、月額料金を払ってインターネット経由で使う在庫管理サービスのことです。自社で作るとは、開発会社に頼むなどして自社の業務に合わせたシステムを作ることを指します。比較サイトでは、受注や請求までまとめて扱う「販売管理システム」や、大きな倉庫の作業指示まで扱う「倉庫管理システム(WMS)」も同じ一覧に並びます。受注から請求まで一つで済ませたいなら販売管理、ピッキング(棚から商品を取り出す作業)の指示まで要るならWMSも候補に入れます。取引先からの注文をFAXや電話で受けていて、注文の受け付けから在庫の確認・出荷・請求までをつなぎたい場合は、受発注システムの選び方の記事で、注文の置き換え方と在庫管理のソフトとのつなぎ方を確かめておくと、どちらから手を付けるかを決めやすくなります。
| 選択肢 | 向いている状態 | 費用の出方 | 気をつける点 |
|---|---|---|---|
| エクセル | 品目が少なく、更新する人が1〜2人。売り場や倉庫が1つ | ほぼ追加なし(共同編集には Microsoft 365 の契約が要る) | 人が増えると上書きと打ち直しが増える。作った人しか直せなくなりやすい |
| 既製のクラウド | 在庫の動きが一般的で、製品の標準の流れに業務を合わせられる | 初期費用+月額(利用人数・拠点・品目数で変わることが多い) | 標準にない動きは手作業が残る。解約時にデータを持ち出せるかを確かめる |
| 自社で作る | 部品と完成品の連動、独自の引当ルール(受注に在庫を割り当てる決め方)など、既製品では合わない動きが中心にある | 開発費が先にかかり、保守・改修費が続く | 要件を決める手間が大きい。作った後に直せる体制を用意する |
分かれ目の目安は、「業務を製品に合わせられるか」です。製品の標準の流れで日々の入出庫の大半が回り、残りを運用で補えるなら、既製のクラウドから試すのが手堅い進め方です。逆に、合わない部分が売上や出荷の中心にある場合は、既製品に手作業を足し続けるより、作る選択肢を比べる価値があります。
途中の選択肢として、受注や会計など既に使っているシステムに在庫の機能を足す方法や、既製のクラウドを使いながら足りない所だけを小さく作ってつなぐ方法もあります。作る場合の費用の目安や、社内で作るか外に頼むかの判断は、業務システム開発の費用相場と内製・外注の判断基準の記事で詳しく扱っています。
Features
確かめる機能は「必ず要る」と「業種で要る」に分ける
機能の一覧を全部埋めようとすると、使わない機能にお金を払うことになります。次の2つに分けて確かめると、候補を絞りやすくなります。
どの会社でも確かめたい機能
- 入出庫の記録:誰が、いつ、何を、いくつ動かしたかが残るか
- 引当:受注が入った時点で在庫を「予約済み」にできるか(売り越しを防ぐ仕組み)
- 棚卸:実際に数えた数と帳簿の差を記録し、差の理由を残せるか
- ロケーション:倉庫や棚の番地ごとに在庫を持てるか
- データの出し入れ:CSVなどで一括登録と書き出しができるか(移行と解約のときに効く)
- 権限:見るだけの人と、数を変えられる人を分けられるか
- 現場の端末:倉庫や店舗でスマホやハンディ端末から入力できるか
- 支援:初期設定や困ったときの問い合わせに、どこまで対応してもらえるか(料金に含まれるか)
業種や商品によって要る機能
- ロット・期限:食品や化粧品など。期限の近いものから出す指示が出せるか
- 製造番号(シリアル):機器や部品など。1台ずつ追いかけられるか
- セット品・部品表:組み立てやセット販売。完成品が出たら部品の在庫が減るか
- 売り場との連携:ネットショップや店舗の販売データと在庫がつながるか
バーコードで入出庫を読む場合は、商品に付いている番号を確かめます。日本で広く使われるJANコードは国際標準の商品識別コード(GTIN)の呼び名で、標準は13桁、短縮タイプは8桁です[3]。自社ブランドの商品に新しくJANコードを付けるには、GS1 Japan から貸与されるGS1事業者コードを使います[3]。仕入れた商品にもともと付いている番号を読むのか、社内用のラベルを貼るのかで、必要な機器や手間が変わります。
在庫の金額の出し方も確かめる
見落としやすいのが、在庫の金額の計算方法です。法人税のうえでは、期末の在庫の取得価額の出し方として、個別法、先入先出法、総平均法、移動平均法、最終仕入原価法、売価還元法などが定められています[4]。評価の方法を選んで届け出なかった場合は、最終仕入原価法による原価法になります[4]。届出の期限は、普通法人を設立した場合は設立第1期の確定申告書の提出期限までなどと決まっています[5]。
在庫管理システムの中には、選べる計算方法が限られているものがあります。自社が届け出ている方法と、システムで出せる金額が合うかどうかは、導入前に顧問税理士と一緒に確かめておくと安心です。
Cost
費用は「5年でいくらか」と「社内の手間」で比べる
既製のクラウドは月額が目に入りやすく、自社で作る場合は開発費が目に入りやすいため、そのままでは比べられません。次の項目を同じ期間(たとえば5年)で足し合わせると、比べやすくなります。
- 初期費用:導入の設定費、開発費
- 毎月・毎年の費用:利用料、保守費。人数や拠点、品目が増えたときにいくら上がるか
- 機器:バーコードを読むハンディ端末、ラベルプリンター、タブレットなど
- データの移行:品目の一覧(マスタ)の整理と、最初の在庫数の登録
- 社内の手間:設定、操作の練習、しばらくの間のエクセルとの二重入力
見積もりを取るときは、料金表の金額だけでなく「品目や利用者が倍になったら月額はいくらか」「解約するときにデータをどの形式で受け取れるか」も書面で確かめておきます。
国の補助金が使える場合もあります。中小企業向けの「デジタル化・AI導入補助金2026」(旧IT導入補助金)の通常枠は、補助率が2分の1以内(賃上げの取り組み状況によっては3分の2以内)、補助額は対象となる業務の工程が1つ以上なら5万円〜150万円未満、4つ以上なら150万円〜450万円以下と案内されています[6]。対象になるツールや申請の手順、公募の締切は回ごとに決まるため、公募要領で確かめてください。制度の変更点はデジタル化・AI導入補助金2026の解説記事にまとめています。
Process
導入の手順(5つの段階)
- 在庫の動きと困りごとを書き出す:最初の節で作った紙1枚に、いま一番困っていること(売り越し、棚卸の差、打ち直しなど)を1つ足します。システムで何を良くしたいかを1文で言える状態にします。
- 「必ず要る」条件を3〜5個に絞る:業種で要る機能と、連携が必要な売り場やシステムを決めます。ここに入らない機能は「あれば良い」として分けておきます。
- 候補を2〜3に絞り、自社のデータで試す:無料の試用期間やデモを使い、実際の品目と、ふだん起きる入出庫を何件か通してみます。現場で入力する人に触ってもらうのがこの段階の要点です。
- 品目の一覧を整え、棚卸をしてから始める:品目の名前や単位の表記ゆれを直し、実際に数えた数で最初の在庫を登録します。ここが崩れていると、システムに替えても数は合いません。
- 短い期間だけ並行して使い、切り替える:エクセルと新しいシステムの数を比べ、差がなくなったことを確かめてから一本化します。並行期間を決めずに始めると、二重入力がずるずる続きます。
自社で作る、または設定を外に頼む場合は、見積もりを取る前に要件を整理しておくと、比べられる見積もりが集まります。確かめる点はシステム開発会社への見積もり依頼前のチェックポイントの記事にまとめています。
FAQ
在庫管理システムの選び方についてよくある質問
中小企業は、既製のクラウドと自社開発のどちらから考えればよいですか?
在庫の動きが一般的なら、既製のクラウドから試すのが手堅い進め方です。試用で自社の入出庫を通してみて、合わない部分が売上や出荷の中心にある場合に、作る選択肢を比べます。
エクセルの在庫管理は、どこで限界になりますか?
行数より、同時に更新する人が増えたときと、受注・出荷・在庫のファイルが分かれて打ち直しが増えたときに限界が来やすくなります。誰の数字が最新か分からない、棚卸の差の原因が追えない、といった状態が続くなら検討の時期です。
無料の在庫管理ツールで十分ですか?
品目や利用者が少ないうちは足りることがあります。ただし無料版は人数や品目数、機能に上限があることが多いので、1年後の規模でも使えるか、有料版に移るときにデータを引き継げるかを先に確かめておきます。
システムに替えると、在庫の金額の計算方法も変わりますか?
税務上の評価方法は会社が選んで届け出るもので、システムを替えただけで変わるものではありません。届け出た方法での金額をシステムで出せるかを、導入前に顧問税理士と確かめておくと安心です。
Sources
参考にした資料
- Microsoft サポート「Excel の仕様と制限」(2026年11月確認)
- Microsoft サポート「Excel ブックの共同編集を使用して同時に共同作業を行う」(2026年11月確認)
- GS1 Japan(一般財団法人流通システム開発センター)「GS1事業者コード・GTIN(JANコード)」(2026年11月確認)
- e-Gov法令検索「法人税法施行令」第28条・第31条(2026年11月確認)
- 国税庁「C1-25 棚卸資産の評価方法の届出」(2026年11月確認)
- J-Net21(中小企業基盤整備機構)「「デジタル化・AI導入補助金2026」3月30日から申請受付」(2026年3月18日掲載)
在庫管理システムは、製品の順位から選ぶ前に、自社の在庫の動きを書き出し、エクセルの限界のサインが出ているかを見ておくと、候補を絞りやすくなります。在庫の動きが一般的なら既製のクラウドから試し、合わない部分が業務の中心にあるなら作る選択肢と5年の総額で比べます。在庫の金額の出し方が届け出た方法と合うかも、導入前に確かめておきましょう。当社では、既製のサービスで足りるかの見極めから、足りない部分を作ってつなぐ開発まで、ご相談いただけます。

