システムを作ったあとで、毎月の保守費用が思ったより高いと感じることがあります。開発の見積は比べやすい一方で、公開したあとにかかる保守や運用の費用は、何を含めるかで中身が大きく変わり、比べにくいからです。この記事では、政府情報システム向けの標準ガイドラインの経費の分け方と、民法の契約の決まりをもとに、保守費用の内訳、契約の型、見積書で確かめることを整理します。
この記事の結論
- 「保守費用は開発費の何%」という目安はよく語られますが、公的な統計で確かめられる数字は、確認した範囲では見当たりません。何を保守に含めるかを分けて見積もるほうが確かです。
- 政府情報システム向けの標準ガイドライン(デジタル庁が担当する「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」・2026年6月改定)は、運用・保守の経費を、システムの運用、アプリケーションの保守、ハードウェアの保守、ソフトウェア製品の保守、ヘルプデスク、サービス利用料などに分けています。見積書もこの分け方で読むと、抜けが見つけやすくなります。
- 保守は、システムを「仕様どおり正常な状態に保つ」作業です。新しい機能を足す作業は、別に見積もるのが基本です。
- 開発したシステムに不具合があったときは、保守ではなく、開発の契約の「契約不適合」として直してもらえる場合があります。開発を請負で頼んだ場合は、民法の原則では、不具合を知ってから1年以内に伝える必要があります。開発の契約で別の期間を決めていることもあります。
「開発費の何%」より、中身で見積もる
保守費用は「年間で開発費の何割」と語られることがありますが、公的な統計で裏付けられた数字は、確認した範囲では見当たりません。同じ金額でも、平日の日中だけ対応するのか、夜間も対応するのか、小さな直しまで含むのかで、中身はまったく違います。割合で判断するより、保守に何を含めるかを分けて見積もるほうが、比べやすく、払いすぎも防げます。
ITにかける予算に悩む中小企業は少なくありません。中小企業基盤整備機構が全国の中小企業1,000社に2025年12月に聞いた調査では、DXに取り組むうえでの課題として「予算の確保が難しい」が26.0%でした(複数回答)[1]。従業員20人以下の会社(522社)では28.1%で、最も多い課題でした[2]。情報処理推進機構(IPA)が2026年7月に公表した「DX動向2026」でも、DXに取り組んでいないと答えた従業員100人以下の企業(285社)の26.7%が「DXに取組むための予算が不足している」を理由に挙げています[3]。作るときの費用だけでなく、作ったあとに毎年かかる費用も、最初に見通しておきます。
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Breakdown
保守・運用の費用の内訳:政府のガイドラインの分け方
政府の情報システムの作り方と管理のしかたを定めた「デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン」(DS-100)は、2014年に各府省の情報化統括責任者(CIO)の連絡会議が決めた初版から改定を重ね、今はデジタル庁が担当しています。最新の改定は2026年6月12日です。このガイドラインは、情報システムの運用・保守などにかかる経常的な経費を、次のように分けています[4]。政府のシステム向けのものですが、民間の会社が見積書を読むときの物差しにも使えます。
| 経費の区分 | ガイドラインでの中身(要約) |
|---|---|
| システム運用経費 | 正常な稼働を保つための状態の把握、ファイルや設定の管理、障害の予防など。仕様や構成の変更を伴わないもの |
| アプリケーション保守経費 | 開発したシステムを、障害や外部環境の変化に対して仕様どおり正常な状態に保つための、プログラムの改修や設定変更など |
| ハードウェア保守経費 | 機器を仕様どおり正常な状態に保つための業務 |
| ソフトウェア保守経費 | 使っているソフトウェア製品を仕様どおり正常な状態に保つための業務 |
| ヘルプデスク経費 | 職員など、システムを使う人からの問い合わせに対応する業務 |
| 情報セキュリティ検査経費 | 侵入テストや脆弱性診断など |
| サービス利用料 | SaaSやホスティングなど、外部のサービスの利用料 |
表は経費区分の一部の要約です[4]。ここで大事なのは、アプリケーションの保守が「仕様どおり正常な状態に保つ」ための作業として定義されていることです[4]。新しい機能を足すことは、この中に入りません。同じ別紙では、機能の改修や追加は運用・保守の経費ではなく、整備の経費として別に分けられています[4]。見積書の「保守費」が、表のどの区分を含んでいるのかを一つずつ確かめると、含まれていないものが見えてきます。
Plan
保守を始める前に作っておくもの
同じガイドラインは、保守を始める前に、保守計画書(保守の範囲、体制、定常時の月ごとの作業内容と予定など)を作って確定させ、保守の進め方も決めておくことを求めています[4]。
保守が始まってからは、毎月などの定期的な会議で保守の事業者にその月の作業実績を報告してもらい、サービスレベル(約束した対応の水準)の達成状況、作業の計画と実績、障害への対応、リスクや課題への対応などを確かめるとしています[4]。民間の会社でも、毎月の報告の形を契約の前に決めておくと、保守費用に見合った作業がされているかを確かめられます。
保守の会社が替わるときは、作業の経緯や残っている課題が確実に引き継がれるよう求めることも書かれています[4]。将来、保守を別の会社に頼む可能性も考えて、設計書や手順書をどこまで渡してもらえるかも確かめておきます。
Contract
払い方の型:定額・都度・時間制
| 型 | 払い方 | 向いている場合 | 気をつけること |
|---|---|---|---|
| 定額(月額・年額) | 決まった範囲の作業を、決まった額で頼む | 毎月の費用を一定にしたい | 範囲の外の作業は別料金になりやすい |
| 都度(頼んだときだけ) | 作業が発生したときに見積もって頼む | システムが安定していて、作業が少ない | 障害のときの対応の早さや費用が読みにくい |
| 時間制(作業時間に対して払う) | 決めた時間の範囲で、作業を任せる | 小さな直しや改善を続けたい | 使った時間によって月の費用が変わる |
民法では、仕事の完成を約束し、その結果に対して報酬を払う契約を「請負」(第632条)、法律上の行為ではない仕事を任せる契約を「準委任」としています(第656条)[5]。どの払い方でも、法律上は請負か準委任のどちらで結ぶかを契約書で確かめます。あわせて、対応する時間帯、障害のときに何時間以内に対応を始めるか、何を範囲の外とするかも契約に書いておきます。請負と準委任の違いは、開発の契約形態(請負・準委任)の記事で詳しく紹介しています。
Defect
不具合は「保守」か「開発の直し」か
公開したあとに見つかった不具合が、もともと開発の時点で約束した内容を満たしていなかったものなら、保守費用で直すのではなく、開発の契約の問題として直してもらえる場合があります。民法は、請負で作ったものが種類や品質の点で契約の内容に合わないとき(契約不適合)、注文した側は、直すこと(追完)などを求められると定めています(売買の決まり〈第562条など〉を、第559条で請負にも当てはめる)[5]。ただし、注文した側がその不適合を知ってから1年以内に相手に伝えないと、直すことや報酬の減額などを求められなくなるのが原則です(第637条)[5]。引き渡しのときに開発した側が不適合を知っていた、または重大な不注意で知らなかった場合は、この期限はかかりません[5]。
政府のガイドラインも、保守計画書で、保守と、契約不適合責任の範囲内で行う作業との分担をはっきりさせるよう求めています[4]。開発の契約で、不具合への対応の期間や範囲を別に決めていることもあります。公開したあとに不具合を見つけたら、まず開発の契約の取り決めを確かめ、保守で直すものか、開発の直しとして頼めるものかを分けます。迷うときは、専門家に確かめると安心です。
Checklist
見積書で確かめる5つのこと
- 含まれる区分:運用・アプリケーション保守・ソフトウェア保守・ヘルプデスク・サービス利用料のどれが入っているか[4]。
- 範囲の外になるもの:機能の追加、大きな作り直し、サーバーの引っ越し、セキュリティ事故への対応などが別料金か。
- 対応の水準:対応する時間帯、障害のときに対応を始めるまでの時間、復旧の目安。
- 毎月の報告:作業実績、約束した水準の達成状況、障害への対応状況をどの形で受け取るか[4]。
- 引き継ぎ:保守の会社を替えるとき、設計書や手順書、残っている課題を渡してもらえるか[4]。
作り始める前の段階から保守のことを考えておくと、あとの費用を見通しやすくなります。システム開発の7つの工程と発注者がすることは、システム開発の流れの記事で紹介しています。
FAQ
よくある質問
システムの保守費用の相場はいくらですか?
「開発費の何%」という目安は語られますが、公的な統計で確かめられる数字は、確認した範囲では見当たりません。何を保守に含めるかで金額が大きく変わるので、内訳をそろえて複数社の見積を比べます。
保守契約を結べば、機能の追加もしてもらえますか?
保守は、システムを仕様どおり正常な状態に保つ作業と位置づけられています[4]。機能の追加は、別に見積もってもらうのが基本です。契約で範囲を確かめます。
公開後すぐに見つかった不具合も、保守費用で直すのですか?
開発の時点で約束した内容を満たしていない不具合なら、開発の契約の「契約不適合」として直してもらえる場合があります。開発を請負で頼んだ場合は、民法の原則では、不適合を知ってから1年以内に伝える必要があります[5]。開発の契約の取り決めも確かめます。
保守の会社を替えることはできますか?
多くは替えられますが、今の契約の解約条件を先に確かめます。政府のガイドラインでも、事業者が替わるときは作業の経緯や残っている課題を確実に引き継ぐよう求めています[4]。契約の段階で、引き継ぎで渡してもらうものを決めておくと替えやすくなります。
Sources
参考にした資料
- 中小企業のDX推進に関する調査(2025年)調査結果のポイント(中小企業基盤整備機構・2026年2月)
- 中小企業のDX推進に関する調査(2025年)報告書(中小企業基盤整備機構・2026年2月)
- DX動向2026(情報処理推進機構・2026年7月)
- DS-100 デジタル・ガバメント推進標準ガイドライン(デジタル社会推進会議幹事会決定・2026年6月12日改定/デジタル庁)
- 民法(明治29年法律第89号)(e-Gov法令検索・2026年11月2日確認)
システムの保守費用は、割合の目安より、何を含めるかで見積もります。運用・保守の区分ごとに中身を確かめ、範囲の外になるもの、対応の水準、毎月の報告、引き継ぎまで決めておくと、払いすぎや思わぬ追加費用を防ぎやすくなります。今の保守契約の見直しや、業務システムの作り方から相談したい場合は、お気軽にご連絡ください。

