紙の注文書や請求書、申込書を見ながらエクセルに打ち込む作業を減らそうとして、AI-OCRのサービスを調べ始めると、似たような説明のサービスがたくさん見つかり、どこを比べればよいのか迷います。「AI-OCRは使えない」という声を見かけることもあります。この記事では、AI-OCRの種類の違いを整理したうえで、なぜ「使えない」と感じられるのかを公的な資料の事例で確かめ、サービスを比べるときに見る軸と、自社の書類で試すときの進め方をまとめます。
この記事の結論
- AI-OCRは読み違いをゼロにはできません。総務省のガイドブックで紹介されている自治体の検証では、申請書など20帳票の正しく読めた割合は、文字単位で93.41%、項目単位で89.11%でした。
- 比べるときに一番見たいのは、読み違いがありそうな所を示してくれるかどうかです。そこだけを人が確かめられれば、全部を見直す手間がなくなります。
- 書類には取引先名や金額、個人の情報が載っています。データをどこで処理し、学習に使われるかどうかを、契約の前に確かめます。
- カタログの精度の数字より、自社の実際の書類(手書き・FAX・PDFを混ぜたもの)で試した結果で決めます。
AI-OCRサービスを比較する前に:種類の違いを知る
AI-OCRは、紙の書類をスキャナーなどで読み込み、書かれている文字を認識してデータにする技術に、AIを使ったものです[1]。昔ながらのOCRは、決められた位置の文字を決められた書体で読むことが中心でしたが、AIを使うことで、手書きの文字や、会社ごとに違う書式にもある程度対応できるようになりました。
サービスを比べる前に、仕組みの違いで大きく分けておくと、候補を絞りやすくなります。
| 種類 | 読み取り方 | 向いている書類 | 確かめておくこと |
|---|---|---|---|
| 帳票の位置を設定する型 | 書類の種類ごとに、どこに何が書いてあるかを設定して読む | 自社で作った申込書など、書式が決まっている書類 | 書式が変わったときに設定を直す手間 |
| 書式を問わず項目を読む型 | 請求書などの項目(日付・金額・取引先など)を、書式が違っても探して読む | 取引先ごとに書式が違う請求書や納品書 | 読みたい項目が、用意された項目に入っているか |
| 生成AIに画像を渡す型 | 画像を生成AIに渡し、指示した項目を書き出させる | 種類が多く、設定を作るのが手間な書類 | 読み違いや書き足しが起きたときに、どこが怪しいかが分かるか |
| 今の業務の表に合わせて作る仕組み | 上のどれかを使い、読み取った結果を自社の表の形に入れるところまで作る | 読み取ったあとの入力や確認も含めて減らしたい書類 | 作る手間と、作ったあとの手直しを誰がするか |
表は、選ぶときの目安として仕組みで分けたものです。1つのサービスが複数の型を持っていることもあります。どの型がよいかは書類によって変わるので、「自社のどの書類を、どの表に入れたいか」を先に決めてから比べます。
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Accuracy
「AI-OCRは使えない」と言われる理由:読み違いは必ず残る
総務省の「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>」(2025年12月・第4版)は、AI-OCRを導入した茨城県つくば市の例を紹介しています。つくば市は2018年12月から2019年3月にほかの5つの市とAI-OCRの正しく読めた割合を確かめる共同研究を行い、つくば市の帳票(20帳票)では、文字単位で93.41%、項目単位で89.11%でした[1]。導入後の読み取りの精度は95%程度とされています[1]。
同じガイドブックは、目で見ても読みにくい字や癖のある字、枠からはみ出した字は読み違いになる場合があると書いています[1]。そのうえで、つくば市のAI-OCRには、AIが読み取りにくい画像を一覧にして表示し、人がその画像を見て入力する機能があることを紹介し、AIの判定結果を人が確かめる手順を設けるよう勧めています[1]。
ここから分かるのは、「使えない」と感じる原因の一つが、どこを確かめればよいか分からない状態にある、ということです。項目単位で9割近く正しく読めても、どの1割が違うのか分からなければ、全部を見直すことになり、手で打ち込むのと手間が変わらなくなります。
Criteria
比較で一番見るのは「読み違いがありそうな所が分かるか」
AIの読み取りサービスには、読み取った結果ごとに「どのくらい確かか」を数字で返すものがあります。たとえばMicrosoftの読み取りサービスの公式ドキュメントは、この「信頼度」を0から1の値で示し、0.95なら20回のうち19回は正しい見込みだと説明しています[2]。そして、正確さが大事な場面では、信頼度を使って結果をそのまま受け入れるか、人が確かめる印を付けるかを決められるとし、人によるチェックを業務の流れに組み込むことを勧めています[2]。同じドキュメントには、すべての項目が信頼度を返すわけではないとも書かれています[2]。
サービスを比べるときは、次の点を画面やデモで確かめます。
- 信頼度の低い項目に、色や印が付くか。その基準を自社で変えられるか
- 印の付いた項目だけを、元の画像と並べて直せる画面があるか
- 人が直した内容が記録に残るか
- 読み取った結果を、自社のエクセルや会計ソフト、販売管理の形で書き出せるか
当社では、FAXや手書きの注文書をスマホで撮るかスキャナーで読み込むだけで、AIが読み取って受注表(エクセル)に明細を1行ずつ入れる仕組みを作り、動画で公開しています。読み取りに自信のない欄は黄色にして横の欄に理由を書き、最後は人がその黄色の所だけを確かめます。手書き・かすれたFAX・印刷・複合機のスキャンPDFの4つの形で試しました(動画の注文書は社名・品名とも架空の見本です)。全部を見直すのではなく、怪しい所だけを見る形にできるかどうかが、現場の手間を左右します。
Checklist
AI-OCRサービスを比べる6つの軸
| 軸 | 確かめること |
|---|---|
| 読む書類 | 手書き・FAX・PDF・写真のどれに対応するか。自社の書類で試せるか |
| 読み違いの示し方 | 信頼度の低い項目に印が付くか。そこだけを元の画像と並べて直せるか |
| 書き出しの形 | 読み取った結果を、今のエクセルや会計ソフトの列の並びで出せるか |
| データの扱い | どこで処理し、どのくらいの期間保存するか。学習に使われるか、使わない設定にできるか |
| 料金の数え方 | 月額の定額か、読み取る枚数や項目の数による従量か。超えたときの単価 |
| 保存の決まり | 紙の請求書を捨ててデータで保存したい場合に、スキャナ保存の決まりを満たせるか |
料金は、サービスによって数え方が違います。つくば市が使ったサービスは、年間の定額で、決まった量を超えると項目の数に応じて料金がかかる形でした[1]。自社の書類が月に何枚、1枚に何項目あるかを数えておくと、見積を比べやすくなります。
Data
書類のデータをどこで扱うかを確かめる
請求書や注文書には、取引先名・金額・口座、場合によっては個人の名前や住所が載っています。個人情報保護法は、個人データの漏えいなどを防ぐために必要で適切な措置を取ること(第23条)と、個人データの取扱いを外に委託する場合は、委託先を必要で適切に監督すること(第25条)を求めています[3]。外部のAI-OCRサービスを使うときも、契約の前に、データを処理する場所、保存の期間、削除の方法、学習に使うかどうかを確かめておきます。
生成AIに画像を渡して読み取る場合は、個人情報保護委員会の注意喚起も参考になります。委員会は、個人データを含む指示(プロンプト)を本人の同意なく生成AIのサービスに入れ、そのデータが回答を出す以外の目的で扱われる場合は、個人情報保護法に違反する可能性があるとし、サービスの提供者がそのデータを機械学習に使わないことなどを十分に確かめるよう求めています[4]。
総務省のガイドブックの例では、つくば市は2019年の時点で、読み込むデータに個人情報が含まれる可能性があるとして、パブリッククラウド上でデータを処理するサービスは適当ではないと判断し、行政専用のネットワーク上のサービスを選んでいます[1]。会社の場合は行政と条件が違いますが、書類の中身によって、使ってよいサービスの範囲を社内で決めておく考え方は同じです。社外のAIに機密情報を入れたときに何が起きるかは、社内AIに機密情報を入力するとどうなるかの記事で紹介しています。
Trial
自社の書類で試すときの進め方
- 対象の書類を1種類に決める:注文書なら注文書、請求書なら請求書と、まず1種類に絞ります。
- 実際の書類を集める:きれいな見本だけでなく、手書き・かすれたFAX・スマホの写真など、実際に届く形を混ぜます。社外のサービスで試すときは、社名・金額・口座などを伏せた写しを使います。
- 項目ごとに正しく読めたかを数える:文字単位ではなく、「金額」「品番」など項目単位で、正しく読めた数と、印が付いた数を記録します。印が付かずに間違っていた項目が、いちばん困る間違いです。
- 確かめる時間を測る:印の付いた所だけを確かめた場合に、1枚あたり何分かかったかを測り、今の手入力の時間と比べます。
- 書き出しまで試す:読み取った結果が、今使っているエクセルや会計ソフトにそのまま入るかまで確かめます。
紙の請求書をスキャンしたデータで保存し、紙を捨てたい場合は、国税庁が示すスキャナ保存の決まり(解像度200dpi相当以上・カラーでの読み取り、期限内の入力、タイムスタンプなど)も満たす必要があります[5]。読み取りの仕組みとは別に確かめます。請求書・注文書を読み取るときに取り込む項目や、空欄の扱いは請求書・注文書をOCRで読み取る手順の記事で、読み取ったあとの照合や消込は請求書自動化の記事で紹介しています。
試してみて、読み取りはできても、そのあとの入力や確認の流れまで作る手が足りない場合は、外に頼む方法もあります。オプティソースの事務作業の自動化では、30分の相談で任せたい事務と今の手順を伺い、今お使いのエクセルや書類の形に合わせて仕組みを作り、動かし始めたあとも見守りと手直しを月額で続けます。御社で行うのは、書類を読み込むことと、黄色になった所を確かめることが中心です。
FAQ
よくある質問
AI-OCRの精度は何%くらいですか?
書類や字の状態で大きく変わります。総務省のガイドブックで紹介されている自治体の検証では、20帳票で文字単位93.41%、項目単位89.11%でした[1]。カタログの数字より、自社の書類で項目ごとに試した結果で判断します。
AI-OCRを入れれば、人の確認はいらなくなりますか?
いいえ、なくなりません。読み違いは残るので、確かめる範囲をどれだけ絞れるかが大事です。信頼度の低い項目に印が付き、そこだけを人が確かめられるサービスを選びます。
AI-OCRとRPAは何が違いますか?
AI-OCRは、紙や画像の文字を読み取ってデータにする仕組みです。RPAは、パソコンでの決まった操作(画面への入力や転記など)を自動で繰り返す仕組みです。読み取ったデータをRPAで別のシステムに入れる、という組み合わせ方もあります。
無料の生成AIで請求書を読み取ってもよいですか?
試すだけなら、社名・金額・口座などを伏せた写しを使います。実物を入れる場合は、入れた内容が保存や学習に使われないかを利用規約で確かめ、社外のサービスに出してよい書類かを社内で決めてからにします[4]。
Sources
参考にした資料
- 自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)(総務省・2025年12月)
- 正確性スコアと信頼度スコアの解釈と改善(Microsoft Learn・2026年11月3日確認)
- 個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号)第23条・第25条(e-Gov法令検索・2026年11月3日確認)
- 生成AIサービスの利用に関する注意喚起等について(個人情報保護委員会・2023年6月)
- はじめませんか、書類のスキャナ保存【令和6年1月以降用】(国税庁・2023年7月)
AI-OCRサービスは、精度の数字だけで比べると、導入したあとに「全部見直すことになった」となりがちです。読み違いがありそうな所を示してくれるか、読み取った結果を今の表に入れられるか、書類のデータをどこで扱うかを、自社の実際の書類で確かめてから選びます。読み取りから入力・確認の流れまでを、今のエクセルのまま仕組みにしたい場合は、お気軽にご相談ください。

